1-10.ドロップアウト(後編)
随分間が空きまして、誠に申し訳ありません。
10回以上書き直し、存在が消されたキャラ数名……
ごめんなさい。お父様。
床に頭をこすりつけ、精一杯謝る。
あなたの子供なのに、優秀でなくてごめんなさい。
あなたの血をひいているのに、賢くなくてごめんなさい。
才能がなく、華がなく、家名に似合わない子供でごめんなさい。
そして必死に訴える。
必ず、お父様の名に恥じぬよう成長すると誓います。
お父様が誇れる子供になると約束します、だから、どうか、どうか……
「あ、起きた」
不意に目を覚ますと、見知らぬ奴が僕の顔を覗き込んでいた。
「……新しい世話役か? 言葉遣いがなってないぞ」
大きく伸びをして、目をこすりながらベッドから降り……
「ひゃっ、冷たい!」
さっと足を引っこめベッドに飛び上がると、ギシッ、と聞きなれない音がした。
ギシッ?
「さすが最上層様は起きた早々から言うことが違うねー」
「だ、誰だお前たち! ここは何処だ!」
「この俺の口のきき方がなってないとよ。ふざけてるぜ。こんな奴どうする気だよ、ソーマ」
ほつれて破けた服を着た褐色の肌の少年が、僕を指さしながら、隣のベッドに腰掛けた茶髪の少年に話しかけた。
「どうもこうも……とりあえず、俺の父さんとカーレイヤ先生呼んで」
褐色の少年は不機嫌な顔をしたが、茶髪の少年は、早く行け、と出口を指でさす。
「へいへい、俺はこの件に口を出さない。関係もないし、駄賃ももらったからな。じゃーなー」
そうして褐色の少年が出て行ってから、俺は自分のほっぺをつねり、これが夢でないことを確認してから、頭をフル稼働させた。
落ち着け、落ち着くんだ、ミネルバ・1・ベネディクト。
毎日みっちり勉強してきたお前の頭は、この程度なのか?
お父様の優秀な血が半分流れている。分からないや、失敗は許されない。
考えろ、考えろ!
「小娘が目をさましたって!」
叩き壊れそうな勢いでドアが開き、白衣の老婆がズカズカと入り込んで来た。
「元気そうじゃないか」
「な、」
言うなり老婆が俺の瞼を引っ張る!
「正常、正常。拒否反応がないのは不幸中の幸いだね」
「そう…」
「説明は済ませたかい?」
「まだ」
「それじゃあ、医者のあたしから説明するよ。あんたたちの事もふくめてね。文句ないだろ」
「…うん」
二人は早口に会話を終え、老婆がずいっと顔を近づけてきた。
「騒がない。喚かない。暴れない。この3つを守ってあたしの話を聞きな、一度しか説明しないからね。しっかり覚えるんだよ」
こんな無礼な老婆に従う必要はないのに、何故か逆らえる気がしない。
脅えと恐怖が入り混じり、僕はギクシャクしながら頷いた。
「案外、素直だね。よろしい」
老婆は満足したように手を叩き、腕組みをした。
「あんたは、ある薬品を浴びて病気になった。薬品の名前はドロップアウト。過度なアレルギー反応を引き起こす薬で、名前の由来は転落。
アレルギー症状は呼吸困難や皮膚の炎症、どっちも命にかかわる反応がでる。
アレルギーの引き金になるのは……最上層の空気」
………え?
「正確には空気に含まれてる物質さね。最上層は層民の健康管理のために、空気中に数種類の薬品を散布している。薬を空気中に適度に、品質を保ち散布させるための物質にアレルギー反応を起こす」
え? え?
「あんたは最上層には帰れない。最上層の空気を吸えば最後、アレルギー反応に苦しみながら死ぬ」
え?
「あたしからの病気の説明は以上さね。今後の事については、そこのガキンチョに聞きな」
老婆は、話は終わったと、さっさと部屋から出て行った。
何だろう?
何故だろう?
すごく大事な話をされたはずなのに、頭が追いつかない。
僕の身に、いったい何が起きたんだ?
茶髪の少年がこちらをちらちらと見る。
視線は感じるけど、それだけだ。
周りの状況が、まるでないような不思議な感覚の中で、僕の頭に他人事のような感想が浮ぶ。
どうやら僕は、元の生活には戻れないらしい。
ようやくスタート地点といったところで、ミネルバの冒険?は始まったばかりです。