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夏の雲  作者: ドルチ
8/15

終わりの始まり


「やっぱり誰も居ないかな」

 

 誰の声も聞こえない公園の入り口で里栄子はため息をついた。

 

「あれ?あの子」


 よく見ると、公園の中心に一人でしゃがんでいる夢人の姿があった。


「夢人君」

「一人で何やってるの?」


「一人じゃないよ」


「え?」


「もういいかい」


「もういいよ」

 公園のあちこちから、聞きなれた声がこだました。


「あ、かくれんぼ?」


 夢人は次々にみんなを見つけ出した。まるでもとから隠れている場所を知っているようだった。

 

「夢人、かくれんぼ上手すぎるよ」

 最後まで隠れていた海もとうとう見つかって、悪態をつきながら出てきた。

 

 

「里栄子久しぶり」


 一週間ぶりの再会だったのだが、余りにあっさりしていたことに里栄子は少し肩透かしを食らったようだった。


「こいつ、夢人って言うんだ」

「朝公園に来たら、仲間に入れてくれってさ」


「おばあちゃんちに遊びに来てるんだよね」


「里栄子、知ってるのか」

 海は里栄子が夢人を知っている事に少し驚いたようだった。

 

「みんなが来なかった日に、夢人君と一緒に遊んだの」


「へぇ、里栄子は暇人だな」

「こっちはもう大変だったんだから」


 詳しく話を聞くと、海達兄弟は二日間外に出る事を禁止されたらしい。それに、危ない事はしないことを約束させられてやっと今日公園に復帰できたということだ。

 

「拓哉君は?」


 里栄子は、拓哉がいないことに気が付いた。


「元気そうだったよ」

「でも、まだ外に出るのはだめだってさ」


「そう・・・」


「ほら、里栄子も遊びに来たんだろ」

「暗い顔してないで、かくれんぼ」


「里栄子姉ちゃん、一緒にやろ」


 凪が、真っ黒に日焼けした顔に満面の笑みを浮かべて里栄子に飛びついてきた。

 

「お姉ちゃん、絶対見つからないから」


「どうせどんくさいから、直ぐ見つかるよ」


「バカだからな」


 いつの間にかいつもの場所に居た時雨が、やじを飛ばしていた。


「じゃあ、あんたもやりなさいよ」


「やるだけ無駄だよ」


「やってみなきゃわからないでしょ」


 時雨を半ば無理やり滑り台から引き摺り下ろした里栄子は、時雨を指差しながら続けた。

 

「ほら、あのお兄ちゃんが鬼やってくれるって」


「お、おい」


「数、数えるんだよ」


 凪に言われて、しぶしぶ数を数え始めた時雨を見て、里栄子はほんの少しだけかわいいなと思った。


「夢人君、隠れて」


 ぼーっとしていた夢人を、ひっぱって公園の隅にある木の陰に隠れた里栄子は妙な夢人の手が冷たいのを感じた。


「夢人君、手冷たいね」


「うん、母さんはいつも僕にそう言うんだ」


 それに、肌は透き通るように白く日焼けの後も無い。


「夢人君はずーっと家で勉強してたの?」


「ん?」


「全然日焼けしてないから」


「僕病気ばっかで、あんまり外に出れなかったんだ」

「でも、おばあちゃん家に来てせっかくだから遊んで来いって」


「そっか」


 少し曇った夢人の顔を見て、里栄子はもうこの話題を話すのはやめようと思った。


「そこ、里栄子と夢人」

「隠れる気あんの?」


 里栄子は、時雨に指摘されて自分が丸見えだった事に気が付いた。


「じゃあ、次の鬼は里栄子な」


 全員を見つけ終えた後で時雨は、里栄子を指差した。

 

「かくれんぼの鬼と呼ばれた私の実力を見てなさい」

「20・・・」


 久しぶりに会った里栄子と時雨と子供達の声は、太陽が沈むまで続いていた。


「じゃ、綾ちゃんよろしく」


「大丈夫、3人だし」


「夢人君は私が送るから」


「バイバイ」


「じゃあな」


 みんなそれぞれの方向に歩き始めて、里栄子は夢人にどっちの方向に家があるのかを聞こうとした。

 

「夢人君の家は?」


「・・・」

 夢人は何も言わない。

 

「あっち?それともこっちかな?」


「僕、ひとりで帰れるから」


 不意に里栄子の手を振り払った夢人は、公園の裏側の方へとかけて行った。夕闇の中に消える夢人の後姿を里栄子は見送る事しかできなかった。

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