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夏の雲  作者: ドルチ
13/15

闇の中で

 もう最初の暗号が書いてある場所について居るはずだったのだが、里栄子達は暗い洞窟に少しずつ取り込まれていくように迷い続けていた。


「どこかで間違ったかな・・・」

 らしくなくつぶやいた時雨は、珍しく里栄子の方を振り向いた。


「ちゃんとみんなで確認しながらきたから、間違えてないと思うけど」


 理由がわからなかった、ちゃんと着くはずだった。進めば進むほどただ迷っているという感覚だけが、広がっていった。

 

「ごめん、迷ったわ」


 それは、残酷な真実だった。里栄子はもちろん、綾も海も、凪でさえも感じていたこと。それを時雨はあえて口にした。



「どうしよっか・・・」

 沈黙しながら歩くみんなに里栄子はそっと尋ねた。


「左手法」


「え?」


「迷路は左手を壁につきながら歩けば必ずゴールに辿り着く」


「じゃあそれで出れるのね?」


「うん、ただ」

 時雨は言えなかった、確かにいつかはゴールに辿り着く。だ、この広い洞窟でそんな方法で出口を探せば果てしなく時間が掛かってしまうということを。

 だが、今はもうそれしか思いつかないというのも悲しい事実でもあった。


「いや、なんでもない」

「とにかく進もう」


 自分に言い聞かせるように、時雨は先頭に立って進み始めた。


 

 

 どれくらい歩いたのだろう、進んでも進んでも闇は深くなるばかり、みんなの足も限界に来ていた。


「少し休むか」


 みんなその言葉に、少しほっとしたようだった。それぞれが持ってきたお菓子を広げる。


「あー、そのお菓子懐かしい」

「いいな、里栄子のお菓子は高級そうで」

「いいな、いいな」


 楽しそうにお菓子を食べている子供達をみて里栄子は少し自分を落ち着かせていた。そうしている間にも、時雨は回りを色々と探っているようだった。


「みんな、聞いて」


 不意に里栄子は立ち上がって言った。

 

「みんなおなかがすいていると思うけど、お菓子は少しずつ食べることにしましょう」

「いつ出れるか、わからないから」


 子供達もその言葉に納得したように、真剣な顔をして話を聞いていた。


「まだ宿題残ってるしな」


「私だって、恋してみたいもん」


「凪も・・・」

 みんな口々に生きる希望を口にしていた。子供って見た目よりずっと強いんだ、そう思うと自分がもっとしっかりしなくてはならない。

 この子達の未来を作ってあげないといけないと里栄子は決心した。



ーそれから一日と半分が過ぎたー


 果てしなく歩き続けていた気がして、足が棒の様になってしまっているのを感じた。子供達も懸命に付いてきてはいるが、もう限界が近いのは見て取れた。

 時雨でさえも、焦りの色を隠せない様子だった。


「・・・」


「・・・・」


 節約していたお菓子もほとんど残りはなくなり、みんな言葉を話す体力も失っていた。


「風だ!!」

 長い間何も話さなかった夢人が急に言った。今まで静まり返っていたみんなも風を感じる。


「ほんとだ」


「風はどこから吹いてるんだ?」


「多分こっちの方・・・」


「風が吹いてくる方に向かえば、でられるかも!?」


 確実ではないが、かすかな希望にみんな少し元気になった様に見えた。進めば進むほど風の音が徐々に大きくなって、希望は現実に変わっていくように思えた。そして、かすかにだが光が指し込んでいるのがわかる。


「ほら、聞いて」

 水が進んでいく方で流れている音がした。


「おーい、出口だぞー」

 先に進んでいた時雨が叫ぶのが聞こえた。里栄子達が追いつくと、ごつごつだった洞窟が終焉を向かえコンクリートで不恰好に整えられた水路のようなところに出た。


「ここは?」


「多分、公園の横の川に続いている水路だと思う」

「あの建物、見たことあるから」


 時雨が指差した先には、確かに見覚えのある建物があった。


「出れたんだ」

「早く行こう」


 次々と外に飛び出していく子供達、だがその中に夢人の姿はなかった。

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