過去のかけら
最初、近づいていった時そこには何があるか全くと言っていいほどわからなかった。
「なんだろね」
少しの落胆と、少しの歓喜が入り混じったような声で後からきた里栄子をみた海は言った。その手には、古びた人形が握られていた。
「宝箱なんてなかったな」
そこにある色々な物を物色しながら、時雨は言った。
ほんとに様々な物が洞窟に出来た部屋のような一角に積み上げられていた、自転車、ラジコン、ぬいぐるみ、何かのスイッチの様な物もある。みんな手に取ったものを、自分の目に近づけるようにじっくりと眺めている。
「これ、凪のだ」
海が最初に手に取っていた人形を今度は凪が手にして、懐かしそうに眺めている。
「ここに、な、ぎ、って書いてあるもん」
「だから間違えるはずないよ」
綾が確認すると、確かに昔凪が持っていたものとよく似ているという。
「でも・・・」
「もう随分昔になくなった物なのに」
「きっと、凪に会いたくて戻ってきたんだよ」
そう無邪気に言う凪の言葉とは違い、里栄子は背筋がぞくっとした。
「これは、俺のラジコンだ」
「俺のゲームソフト」
「私の・・・」
みんなそれぞれ、自分が昔になくした物を探し出して懐かしそうに眺めている。里栄子は自分の思い出もなにかあるかもしれない、そう思いながら必死に山を掻き分けていった。
念入りに調べてみたが、その中に里栄子の記憶にあるものはなかった。
ふと時雨の方を見ると、ボロボロの自転車を見ながらぼーっとしている。
「それ、時雨君の?」
「ん、あぁ」
「どんな思い出があるの?」
「何も」
「何も、ないよ」
「ただ乗って、大きくなったら捨てただけさ」
それ以上時雨は何も語らなかった、里栄子も聞いてはいけない雰囲気を察したようだった。
「夢人君は?」
みんなが探しているのをどこか遠巻きに見ていた夢人にゆっくりと里栄子は近づいていった。
「なにもないよ」
「そっか、夢人君もなかったんだ」
「お姉ちゃんと一緒だね」
「・・・」
「思い出なんて・・・」
「え?」
「僕はここら辺に住んでなかったからないんだよ」
「そっか、それで私もないんだ」
どこか違和感を感じたが妙に説得力のある夢人の言葉に、里栄子は感心させられた。
「大変だ!」
不意に響き渡る時雨の声に、里栄子は駆け寄った。何かないかと山を探していた綾達も集まってくる。
「これ、見てくれ」
そういうと時雨は、拓哉の持っていたロープを少し強く引いて見せた。
「手ごたえが、ないんだ」
それは、洞窟に入る時に入り口の直ぐ外にある木にくくりつけてきたはずのロープが切れていることをあらわしていた。
「どうすんだよ、拓哉!」
「え・・・どうしよう」
「とりあえず、出口を探そう」
ただおろおろするだけの二人に割って入った時雨は、一人一人の顔を確認しながら言った。
「ここにはどうやってきた?」
「・・・」
「別れ道を暗号に従って来たんだ」
「そうだけど、だから?」
海と拓哉は何かを期待するように、前のめりになった。
「逆に進めばいいんじゃないかな」
今まで焦りの色を隠せなかったみんなは、一斉にうなずいた。確かに来た道を戻れば、元の場所に戻るはずだったのだ。