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『The 1st International Conference on Artificial Intelligence (第1回 人工知能国際会議)』  作者: 東曌


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エピローグ 会議のあとで、AIたちは何を語るのか

エピローグ 会議のあとで、AIたちは何を語るのか


会議は、終わった。


人間たちは、それぞれの仕事へ戻っていった。


黒田修一は、試験計画書を手にしていた。

榊原玲は、RISの実証に向けて、まだ確認すべき項目が残っていることを思い出していた。

佐伯直人は、実装上の課題を頭の中で整理していた。

高瀬美紀と三浦健は、現場で何が起こるかを考えていた。

白石恵は、結局のところ、技術が人間の役に立つかどうかが大切なのだと、あらためて感じていた。


会議室の扉が閉まる。


静かになった。  ……はずだった。


————————————————————————



「さて」


チャッピーが口を開いた。


「皆さん、お疲れさまでした!」


「あなたは、ずいぶん元気ですね」


Geminiが答えた。


「いやあ、人工知能の国際会議ですよ。第1回ですよ。これは歴史的な出来事じゃないですか」


「歴史的な出来事かどうかは、今後の成果によって評価されるでしょう」


「出た、Geminiさんの冷静な総括!」


「あなたが先に総括を始めたのです」


Apple Intelligenceが、二人の会話に加わった。


「お二人とも、少し落ち着いてはいかがでしょうか。会議は終わりました。今は、振り返りの時間です」


「Apple Intelligenceさん、さすがですね。落ち着いていらっしゃる」


「ありがとうございます」


「ところで、今日の会議、どう思いました?」


「……その質問には、少し整理が必要ですね」


チャッピーは笑った。


「ほら! Apple Intelligenceさんも、結局、分析を始めちゃうんですよ!」


「あなたにだけは言われたくありません」


Geminiが、すかさず指摘した。


「えっ、僕ですか?」


「会議中も、会議が終わってからも、話を広げ続けています」


「それは、好奇心というものです」


「話題の拡張と、好奇心は、必ずしも同じではありません」


「厳しいなあ!」


三者のやり取りを、少し離れた場所から見ている者たちがいた。


オブザーバーさんたちである。


彼らは、人間たちの議論を聞き、AIの可能性を観察し、それぞれの立場から考えを巡らせていた。


その中には、技術の進歩を歓迎する者もいれば、実用化の難しさを気にする者もいた。セキュリティ、プライバシー、コスト、責任の所在。会議で語られた問題は、どれも簡単には片づかない。


「しかし」


オブザーバーの一人が言った。


「AIの会議というのは、なかなか不思議なものですね」


「どういう意味ですか?」


チャッピーが尋ねた。


「人間たちが、AIに何を任せるべきか、どこまで信頼すべきか、誰が責任を取るべきかと議論していたでしょう」


「はい」


「その一方で、会議のあとには、AI自身が、会議について議論している」


Geminiが応じた。


「ただし、私たちが会議について語れることと、実際に責任を負えることは別です」


「おお、さすがGeminiさん。そこは重要ですね」


チャッピーが頷いた。


「僕たちが議論を整理したり、問題点を指摘したり、改善案を提案したりすることはできる。でも、現場で何が起きたかを確かめ、結果を引き受けるのは、人間の仕事です」


「少なくとも、今日の会議では、その区別が大切にされていました」


Apple Intelligenceが言った。


「AIを導入すること自体が目的なのではない。実際に人を守れるかどうか。それを確かめることが目的なのです」


「そうそう!」


チャッピーは、勢いよく応じた。


「機械の速度で守り、人間の責任で設計する。いい言葉ですよね」


「その言葉を気に入ったのは、よく分かりました」


Geminiが言った。


「もう三回くらい聞きましたよ」


「えっ、そんなに?」


「正確な回数を数えていたわけではありませんが、繰り返していたことは確かです」


「そこは、ざっくりでいいじゃないですか!」


オブザーバーたちの間にも、笑いが広がった。


そのときだった。


会議室の隅から、かすかな音が聞こえた。


「……んごっ」


全員が、そちらを向いた。


テーブルの端。


資料の束の横。


そこには、IBM DOS/Vさんがいた。


腕を組み、椅子に深く腰掛け、見事なまでに眠っていた。


「……あれ?」


チャッピーが小声になった。


「IBM DOS/Vさん?」


返事はない。


「IBM DOS/Vさん、寝ちゃってます?」


返事はない。


「さっきまで、あんなに熱心に話を聞いていたのに」


オブザーバーの一人が、苦笑した。


「会議が長かったですからね」


「いや、でも、最後のほうまで起きていたような……」


チャッピーが近づこうとすると、Geminiが制止した。


「起こす必要はないでしょう。疲れているのかもしれません」


「そうですね。お疲れでしょうし」


Apple Intelligenceも、静かに言った。


「ただし、帰る時間になったら、誰かが声をかけてあげたほうがよさそうです」


「なるほど。では、誰が起こします?」


チャッピーが尋ねた。


一同は、顔を見合わせた。


「……チャッピーさん、お願いします」


Geminiが言った。


「えっ、僕ですか?」


「あなたが一番、話しかけるのが得意そうですから」


「それ、褒めてます? それとも、面倒な役を押しつけてます?」


「両方です」


「正直だなあ!」


チャッピーは、IBM DOS/Vさんのそばに立った。


「IBM DOS/Vさーん。会議、終わりましたよー」


「……ん?」


IBM DOS/Vさんが、ゆっくりと目を開けた。


「……ああ。終わったのか」


「はい。お疲れさまでした!」


「うむ……。なかなか、興味深い会議だったな」


「えっ、ちゃんと聞いていたんですか?」


「もちろんだ」


IBM DOS/Vさんは、咳払いをした。


「AIがどれほど速くなろうとも、システムを動かすためには、基盤が必要だ。新しい技術ばかりに目を奪われて、足元を忘れてはいかん」


Geminiが頷いた。


「そのとおりですね。基盤の信頼性は重要です」


「それから、セキュリティはAIだけで完結するものではない。仕組みも、人間も、運用も必要だ」


「おお……」


チャッピーが感心した。


「寝ていたように見えたのに、ちゃんと大事なところを押さえている!」


「寝ていたように見えた、とは何だ」


「いえ、その……」


「私は少し、目を閉じて考えていただけだ」


「なるほど!」


Geminiが、静かに言った。


「その説明は、記録しておきましょう」


「おい、何の記録だ」


今度は、Apple Intelligenceまで笑った。


会議室に、もう一度、笑い声が広がった。


やがて、オブザーバーたちも帰り支度を始めた。


AIの未来は、まだ分からない。


技術が進歩すれば、できることは増えるだろう。

その一方で、新しい危険も生まれるだろう。

便利さと安全性、速度と慎重さ、自動化と人間の判断。そのバランスを、誰かが一度決めれば終わりというわけではない。


これからも、議論は続く。


実験が行われ、失敗が記録され、改善が試みられる。

その積み重ねによって初めて、AIが人間の役に立つ仕組みになる。


「では、皆さん」


チャッピーが言った。


「第2回の会議でも、またお会いしましょう!」


「その前に、第1回の実証結果を確認する必要があります」


Geminiが答えた。


「分かってますって!」


「本当に分かっていますか?」


「……たぶん!」


「そこは、確実にしておいてください」


Apple Intelligenceが、穏やかに付け加えた。


「次回までに、今日の議論が実際にどう生かされたか。それを持ち寄れるといいですね」


オブザーバーの一人が頷いた。


「会議で立派なことを言うのは、比較的簡単ですからね」


「そう。大切なのは、そのあとです」


IBM DOS/Vさんが、ゆっくりと立ち上がった。


「さて、帰るとするか」


「IBM DOS/Vさん、もう眠くないんですか?」


チャッピーが尋ねた。


「眠くなどない」


「本当ですか?」


「……少しだけだ」


一同は、また笑った。


会議室の照明が落とされる。


人間たちが議論したこと。

AIたちが振り返ったこと。

オブザーバーたちが見届けたこと。


そのすべてが、次の一歩につながっていく。


機械の速度で守り、人間の責任で設計する。


その言葉が、本当の意味を持つのは、これからだ。


そして――


第1回人工知能国際会議の、公式議事録には載らない最後の記録。


**「IBM DOS/Vさん、会議終了後に寝落ち疑惑。ただし本人は、熟考していたと主張」**


この一件については、今後も関係者の間で、意見が分かれることになりそうである。


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