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看板職人ヤスミンは赤い糸を書き換える

作者:乾為天女
最新エピソード掲載日:2026/03/25
 旧市街で看板や迷子札、恋文の代筆まで請け負う「ことば屋つばめ」の看板職人ヤスミンは、人の暮らしに合う言葉を書く腕で町の人々に頼られていた。ある朝、都市整備局広報課のハッサンが持ち込んだ掲示文を読んだ彼女は、整いすぎた文の奥に、あとから無理に差し込まれたような違和感を見つける。橋の案内板、縁談登録札、営業許可の掲示――本来は人を守るはずの言葉が、少しずつ住民の権利を削る向きへ書き換えられていたのだ。
 感情で動くヤスミンと、証拠と手順を重んじるハッサンは何度もぶつかりながらも、工房の仲間や配達人、茶屋、印刷所、文書庫の協力者たちと手を組み、改ざんの痕跡を追っていく。やがて調査は、六年前の豪雨の夜に起きた避難誘導の混乱と結びつき、ヤスミンが胸の底へ押し込めていた母の死の記憶まで掘り起こす。さらに、旧市街を切り捨てようとする思惑と、言葉そのものを都合よくねじ曲げてきた流れが明らかになっていく。
 削られた言葉を取り戻すため、二人は夏至祭の舞台を告発の場へ変える。恋や感謝を語るはずの祭りの席で、図面、控え、押印記録、住民の短い願いの言葉を積み重ね、町の暮らしを守るための真実を語り直す。言葉で人を立ち止まらせる女と、正確さで町を守ろうとする男。すれ違い続けた二人が、互いの仕事を認め合い、失われかけた暮らしと恋を自分たちの手で書き直していく
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