晒されるダンジョン
ダンジョン名:サービス残業お断りダンジョン
レベル:19
経験値:39580
属性:冥
冒険ログ:26
状態:健康を維持しています。
俺の『サービス残業お断りダンジョン』は、初見殺しの防衛経験値と、格上相手にも食らいつく妙に粘り強いラビリミンたちのおかげで、着実にレベルを底上げしていた。
そろそろレベル20に到達である。
レベル20以降は、レベルを維持するだけでも大変になる。
しばらくレイドをしないと経験値が減っていく『しばらく』が、およそ一週間前後になるからだ。
ここから先はより適切なレベル帯の相手と、毎週のレイドが欠かせない。
野生のダンジョンスプラウトには、レベル20以上の個体はほとんどいないらしい。
ダンジョンスプラウトは植物であるため、自力で移動することができない。
そのため、レイドはラビリミンが徒歩で行ける範囲のダンジョンに限られてしまう。
同じ相手とのレイドばかりでは十分な経験値を得られず、ダンジョンの修復などでも経験値を使うため、やがてレベルは頭打ちになってしまうのだ。
そんなある日のレイド会だ。
俺の『サービス残業お断りダンジョン』にスマホをかざし、覗き込むように見てる男がいた。
「こんにちは。レイド希望ですか?」
声をかけると、男は困ったような半笑いを浮かべ、頭を掻きながら去っていく。
「……またか」
俺はため息交じりに呟いた。
最近、俺のダンジョンスプラウトが、ネットに晒されてるようなのだ……。
世にもレアな『冥』属性ということで、ラビスコープのスクリーンショットや外観の写真が、5ちゃんやSNSに出回っている。
AI画像やコラ扱いしていた奴らが、そんなものが本当に存在するのか、ウォッチ行為をしにきているのだろう。
「別に、見るのはかまわないけど。一言くらい声かけて欲しいよなぁ」
俺がそんな風にぼやいていると、後ろから声をかけられた。
「お兄さん。今日の相手はお決まりかな?」
振り向くと、そこに立っていたのは、フリマで怪しげな栄養剤を売っていた女だった。
名前は、確か……薬師寺理央。
大手製薬会社アゾット製薬の研究員だ。
相変わらずの白衣をまとい、度のキツいメガネをかけている。
両手には、アクリル製の籠をぶら下げていた。
本来は透明なはずの籠だが、グラフィカルなステッカーがベタベタと貼りつけられ、中を覗くことはできなかった。
「あれ? お姉さん、ダンジョンスプラウトなんて育ててたんだ!」
俺が籠を指さしそう言うと、理央は奇妙な含み笑いをしながら言った。
「えひひっ。まあね。それよりさぁ、今日のレイド相手まだ決まってないなら、私とレイドしようよ」
理央は言いながら、籠から鉢植えを取り出した。
真っ黒いダンジョンだ。書道用の硯を思わせる素材のブロックが、重層的に組み合わさっている。
装飾は一切ない。だがその潔いまでのシンプルさが、黒一色に沈んだ外観と見事なまでに調和していた。
「おおっ!? なんだこれ! 真っ黒じゃん! 何でできてるの?」
「これは、モルタル。わかりやすく言えば、セメントだよ。パーライトって素材も混ぜてあるね。レンガの半分ほどの重さで、強度はそれなりで加工も容易なんだ。黒いのは、炭の粉末が混ぜてあるからだよ。えひっ」
「へえー! いいじゃん、いいじゃん。カッコいいじゃん! 俺、好きだよこういうの!」
漆黒というのは、いくつになっても男の厨二心をくすぐるものだ。
俺はウキウキしながらダンジョンスプラウト読み取りアプリの『ラビスコープ』を、理央のダンジョンへと向けた。




