コロちゃんの事情
俺たちは公園のベンチに座り、四百円のたこ焼きをつついていた。
今のコロちゃんは再び髪を後ろに撫でつけ、ヤンキーモードに戻っている。
どうやら、以前のレイド会で「この辺で働いている」と話したのを覚えていて、早く三千円を返したくて俺を探していたらしい。
しかし、これがあの可憐なコロちゃんと同一人物とは……。
彼の祖父が二重人格、解離性人格障害を心配したのもよくわかる。
コロちゃんは猫舌なのかタコ焼きを割って、丁寧にフーフーと冷ましながら口を開いた。
「父ちゃんも母ちゃんも元ヤンなんです。オレの名前からして『虎死露羽』ですからね。どこの暴走族かって話ですよ」
「……確かにね」
「オレも当然、ガキの頃からバリバリのヤンキーっす。でも中学の文化祭で、演劇部の役者が腹痛で抜けて、衣装のサイズが合うやつ他にいなくって。みんなマジで困ってたんで、まあいいかって、引き受けたんですよ」
「幸か不幸か、それが似合っちゃったわけだ」
コロちゃんは頷いた。
「はい。鏡の中の自分を見た時に、正直イケてると思いました。普段はオレを煙たがってるクラスの連中も、劇が終わったら褒めに来てくれて。その格好でトイレに行こうとして、他校の揉めてた奴らとバッタリ会ったんです」
「え!? それで、どうなったの?」
「いつもならガン飛ばし合う仲なのに、オレを見てみんな顔を赤くしてました。オレも普段なら啖呵のひとつも切るとこですけど……なんか緊張して、うまく喋れなくて。そしたらあいつら、妙にソワソワして優しくしてきて……。オレもチヤホヤされて、気分悪くなかったっつーか……」
なぜ彼が女装するのか、話を聞いて腑に落ちた。
つねに周囲を威圧し、敵意にさらされるのが不良少年の日常だ。
それが女装という魔法で、初めて人に『優しく』された。
その体験は、コロちゃんの心に消えない足跡を刻みつけたに違いない。
「ふうん。まあ、誰に迷惑かけるわけでもないし。俺も女子服のコロちゃん、可愛いと思うよ」
「あ、あざっす! へへ。……嬉しいな」
照れる彼を見て、俺はふと疑問を口にした。
「でも、なんでそんな状況でダンジョンガーデナーなんて始めたんだ? お金かかるだろ」
今のコロちゃんは、三千円のお金さえ捻出するのに苦労している。
女装の他に金のかかる趣味なんて、増やす余裕はなかったはずだ。
コロちゃんは、少し言いにくそうに視線を落とした。
「それは……オレの叔母ちゃん、悪い人じゃないんすけど、金にガメつくて。爺ちゃんが死んだ後、遺品を全部売っ払おうとしたんです」
「ああ、よくある話だね」
身内が亡くなると実際にはショックが先立ち、遺品整理はつい後回しになりがちだ。
そんな中で率先して動き、現金化できるものをきちんと換金してくれる親戚の存在はありがたい。
もっともそんな合理性、高校生がすんなり受け入れるのは無理だろう。
コロちゃんは、言葉を続ける。
「それで、深水常之宮もオークションにかけられたんですよ。ところが落札後、運搬中の事故でダンジョンが半壊しちまって……。買い手の人は高レベルのダンジョンスプラウトを求めていたらしいんで、結局、壊れた深水常之宮は、爺ちゃんの家に戻ってきたんす」
「えーっ!? そ、それは酷いな」
コロちゃんは深く頷く。
「本当ですよ。金銭的な補償は、保険会社がしてくれました。でも、戻ってきた深水常之宮はボロボロに壊れていて……。それでも、かつては日本一のダンジョンスプラウトですからね。もう一度オークションに出せば、半壊の状態でも数百万円にはなると言われたんです」
コロちゃんはタコ焼きの舟を見つめ、声を絞り出す。
「……けど、爺ちゃんが大切に育てたダンジョンが、ボロボロになって目の前にあるんすよ? それがまた、名前も知らねえ誰かに売られていくなんて……。想像しただけで、もう耐えられなくて……。それで、叔母ちゃんにお願いしたんです。祖父ちゃんの金も遺品も、なんにもいらない。だから、そのダンジョンスプラウトだけはオレにくれ! って」
「コロちゃん。その気持ち、俺にはわかるよ」
俺の脳裏に、ダンジョンスプラウトを拾った夜の記憶が蘇る。
壊れ果てたダンジョンほど、見る者の心を締め付けるものはない。
あの、どうしようもないやるせなさと、放っておけないという焦燥感……。
俺には、痛いほどよくわかった。
「そしたら父ちゃんと母ちゃんも、『自分らも何もいらねえ。だから、虎死露羽の頼みを聞いてやってくれって』って、頭を下げてくれて。結局、オレの分の形見分けはダンジョンスプラウトだけだったんすけど、叔母ちゃんもその他の遺産はちゃんと平等にわけてくれました」
「なるほど。紆余曲折あったけど、最終的には収まるところに収まった形だね」




