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街の灯りが点く頃に

 レイド会は午後五時で終了した。

 俺と凛花はすっかり顔なじみになっているので、椅子の片づけなどを手伝い、知り合いに軽く挨拶をしてから公民館を出る。


 その後は予定通り、凛花を食事に誘った。

 ダンジョンスプラウトがある以上、あまり遠くまでは行けない。俺はアクリル製の籠を持ち上げて運んでいるが、凛花はキャスター付きの籠をゴロゴロと転がしている。

 駅前の居酒屋街は、日曜の夕方はまだ空いていた。

 赤い提灯が並び、どの店からも美味しそうな匂いが流れてくる。 凛花が言う。


「うわ……。めっちゃいい匂いしますね!」


「腹減ってきた?」


「減ってきました。ペコペコです」


「じゃあ、ここ」


「ここ……ですか?」


 凛花が看板を見上げた。木の板に筆文字で書かれた店名は『焼き鳥がるぅだ』だ。

 イタリアンでは気取りすぎだし、フレンチでは何か下心がありそうに見える。

 恋人同士ではない男女が誕生日を祝うには、これくらいのフランクさが最適な気がした。


「うん。ここの焼き鳥、うまいんだ」


 本当は、初めて来る店だ。

 この辺の居酒屋をネットで調べて、「安くて静か」と書かれていたのを見つけただけである。

 まあ食べログ☆3.8だし、うまいだろ。きっと。

 俺は、ガラガラと引き戸を開ける。


「いらっしゃい!」


 店内はこぢんまりしていて、カウンターが八席、テーブルが二つ。

 炭火の上で焼き鳥がジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いが広がっている。

 俺たちは奥のテーブル席に座った。さりげなく、壁のメニューに目を走らせる。


 - もも串 180円

 - レバー 180円

 - ねぎま 200円

 - つくね 220円

 - 唐揚げ 550円

 - だし巻き卵 480円


 ……よし。大丈夫だ。高くない。

 俺はまるで常連みたいな手つきで、机のメニューを凛花に差し出す。


「さて、何を食べようか?」


「じゃあ……つくね、食べたいです」


「いいね。俺も好きだ。飲み物は何にする?」


「ビールにします」


 店員を呼ぶ。


「すみません、生中二つ。つくね二本と、ねぎま二本。それとだし巻きください」


「はーい!」


 注文を終えると、彼女はおしぼりで手を拭きながら言った。


「こういうお店、あんまり来ないから新鮮です」


「だろ?」


 二人でジョッキを掲げ、軽くぶつけ合う。


「乾杯」


 カチン、小さな音が鳴る。喉を鳴らしてビールを飲むと、期待通りにキンキンに冷えていた。

 炭火の香り。ジョッキの水滴。隣の席のサラリーマンの笑い声。

 派手じゃないけど、悪くない夜だ。

 少し早いが、プレゼントを渡してしまおう。


「おめでとう、凛花ちゃん。これ、誕生日プレゼント」


 リュックから赤いベロアの巾着きんちゃくを出して渡す。


「わ、ありがとうございます」


 凛花はニコニコ顔で受け取って、中身を出して、動きが止まった。

 あ、あれえ……? 反応薄いな。

 もっとこう、「きゃあ、カワイイ〜」とか「すごい、カッコいい!」みたいな感じで喜ぶと思ってたのに。

 と、凛花の目から涙がポロっと落ちる。


「えっ!? ちょ、ちょっと、凛花ちゃん!?」


 凛花は目元を拭って、恥ずかしそうな照れ笑いをしながら言う。


「アハハ……ごめんなさい。こんな素敵なプレゼントもらえるなんて、思ってなくて……なんか、感極まっちゃいました!」


「そ、そうか……。てっきり俺、またなんかマズいことやっちゃったかと」


 いや。女の子に泣かれるのは、マジで心臓に悪い。

 胸の辺りがキュウッとなる。


「でも、よかった。そんなに喜んでもらえて」


「はい。私……誕生日の話をしたから、玄さんから何かもらえるかなーって、ちょっと期待はしてたんです。でも多分、栄養剤とか二、三千円分くらい渡されて終わりだろうって思ってて……」


 ドキッ。あぶねえ!

 (あや)うくテンプレありがち野郎になるとこだった。

 その時、焼き台の向こうから店主が声をかけてきた。


「お姉さん、誕生日かい?」


 店主が焼き鳥の皿を差し出した。店員が持ってくる。

 ねぎま二本、つくねが三本。

 つくねの上には卵黄が乗っている。


「一本、おまけ」


 彼女がパッと顔を明るくする。


「ありがとうございます! いただきます」


 つくねを食べると、口いっぱいに炭火の香ばしさと甘辛いタレの風味が広がり、ふんわり柔らかくて肉汁がジュワっとあふれ出した。

 たまに混じる軟骨のコリコリとした食感に、卵黄のまろやかさがとろりと絡む。

 凛花も俺も笑顔になった。


「このつくね、美味しい!」


「うん。美味いね」


 凛花は大切そうにベロアのポーチをバッグに入れて、微笑んだ。


「玄さん。私このルーペ、一生大事にしますね」


 本当に。今日は、悪くない夜だ。

 何気ない日常の一瞬が、いつの間にか特別に変わっていくような。

 そんな時間を過ごすことができた。

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― 新着の感想 ―
逆に本命でもない女友達へのプレゼントの方が難しい時もあるよね。 アウトレット品と言わなかったのは正解、わざわざ好感度を下げる必要はないもんね。
ブラック企業勤めだけど貯金あんまり無い感じなのか…使う時間すらなさそうなのに貯まって無いとなると根本的に安月給なのか…
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