本命のプレゼント
栄養剤は手に入れた。だけどもこれは、あくまで保険である。
本命のプレゼント探しは、ここから始まる。
フリマコーナーのテープで区切られたスペースの中には、さまざまな品が並べられていた。
園芸用のエプロン、剪定ハンマー、アクリルケース、ミニチュア資材にピンセット。
鉢植えの土に突き刺してソーラーパネルで充電し、暗くなるとLEDで照らすランタンなどなど……その中で、ふと俺は足を止める。
ブルーシートの上に、色とりどりのルーペ。つまりは、拡大鏡が並べられている。
「いらっしゃい。掘り出し物が安く売ってるよ」
温和そうなおばちゃんが、ニコニコ笑って声をかけてきた。
どうやらこの店は、型落ちの旧モデルや展示品などを扱う、新古品のディスカウント専門店らしい。
ルーペは、ダンジョンスプラウトのレイド観察に欠かせないアイテムだ。
俺が使っているのは、Amazonで千円で買った倍率5倍、柄がプラスチックの安物の虫眼鏡だ。
でも高価な品で観察すれば、きっと気分も上がるだろう。
俺はしゃがみ込み、並べられたルーペを眺める。
その中のひとつに、思わず目を奪われた。
アンティークのハンドミラーのような、優雅な曲線を描く美しいルーペだ。
持ち手はワインレッドのエナメル塗装。レンズの縁には黄金色の真鍮で、絡みつく蔦の装飾が施されている。
柄の先には落下防止の紐を通すストラップホールがあり、そこには金色の双葉のチャームが飾られていた。
「これ、いいな。かなり可愛いぞ!」
手に取って、思わず声が出る。
値段は一万七千五百円。可愛くない値段だ。
だが、横には「定価35000円」と書かれている。
なんと、半額! これはなかなかの衝撃である。
おばちゃんが身を乗り出してきた。
「それはね、箱潰れがあるんだよ。ほら、ここに」
そう言って、箱をクルリとひっくり返す。
裏側を見ると、確かに見事なくらいベッコリとへこんでいた。
しかも水たまりにでも落としたのか、表面がシワシワにゴワついている。
「なるほどな。これじゃ、定価では売れないわけだ」
「でも、中身は新品と変わらないよ。保護フィルムも剥がしてないしね。性能だって、最新モデルと同じなんだ。これだけの品なら一生モノだよ!」
「うーん……。自分用ならまだしも、誕生日プレゼントだからなぁ」
「ああ、なんだ。プレゼントにするのかい?」
おばちゃんは、ニヤリと笑った。
「だったら、こうすりゃいいさ」
横に積んであった箱を探り、赤いベロアの巾着を取り出す。
中にルーペを入れて、口をちょうちょ結びでキュッと縛って見せる。
「ほらね。これなら、見た目もばっちりだろう?」
潰れた箱をなんとなく眺めていると、メーカー名が目に入った。
なんと、俺が使っている剪定用ハンマーと同じ会社だ!
……あのメーカー、こんな洒落たデザインの物も出してたのか。
説明書を見てみると、レンズは歪みの少ない非球面タイプ。しかも持ち手をひねれば、白からオレンジまで色と明るさを変えられる、LEDライト付き。
電源は単四電池一本だ。文句なしの性能である。
俺は薄給の貧乏人ではあるが、今は多少の余裕がある。
ダンジョンスプラウトを買うために、こつこつ貯めていた貯金があるからだ。
夢だったダンジョンスプラウトを手に入れた以上、もう無理して貯め込む必要もない。
金は後生大事にしまい込むためじゃない。使うためにあるのだ。
「よし。おばちゃん、これ買うよ!」
「あいよ。一万七千八百円ね」
「え? ここに一万七千五百円って……?」
「三百円は、巾着袋の代金だよ。それとも袋なしで買うかい?」
「くっ……。わ、わかった。言い値で買うよ」
「あいよ、毎度あり!」
このおばちゃん、温和そうな顔をして、なかなかのやり手だ。
まあいい。実際、袋はいいアイデアだしな。
うっしゃ。これでプレゼントは完璧だ!




