怪しげな栄養剤
まずは、栄養剤を売ってる店を探してみよう。
会場を見回すと、白衣を着てやけに度の強いメガネをかけた女が、怪しげな栄養剤を売っているのを見つけた。
近づくと、声をかけられる。
「いらっしゃい。えひひ、良いものたくさん売ってるよぉ!」
「ふうん。この六本千円ってやつ、市販品の半額だよな。何が違うんだ?」
「同じだよぉ! 中身は一緒ね。ただ、値段が安いだけ……」
マジかよ。
それ、めちゃくちゃお得じゃないか!
……いや、本当に同じなのか?
「メーカー品と同じ? とても信じられないな」
俺が疑いを込めてそう言うと、白衣のメガネ女は変な含み笑いをする。
「えひひひ……。本当だよ。だってアタシは、そこの製薬会社で主任研究員をやっているからねえ」
女は懐から名刺を取り出す。
名前は、薬師寺理央。生年月日からすると、年齢は二十七歳。
務めている会社は、アゾット製薬。
ダンジョンスプラウト用の栄養剤を販売している、最大手のメーカーだった。
「えっ。お姉さん、エリートなんだね。だけど会社と同じものを、個人で売って大丈夫なの?」
「バレたら怒られるかもね……。えひひっ。でも、アタシは優秀だからさ。どうせ、クビにはならないんだ」
さらっと、とんでもないことを言う。
「へえ、羨ましいな。で、こっちは……一本八千円!? な、なんだこれ! おいおい、いくらなんでも高すぎだろっ!」
「ああ、それ? それは効くよぉ。すごく効くよぉ」
理央はまたもや、変な含み笑いをひとしきりしてから言う。
「普通、ダンジョンスプラウトのレイドは週に一回だろう? その理由は知ってるかい?」
「ああ。荒らされたダンジョン内部を組み直したり、獲得した経験値で階層を広げたり、剪定で傷ついた部分を修復したりするのに日数がかかるからだろ」
「えひひ……この栄養剤はね。その間隔を狭めることができるのさ。使うとラビリミンに活力を与えてね、たったの三日で次のレイドができるようになるんだよ」
「ええーっ!? マ、マジかよ。すげえ。でも、ダンジョンスプラウトの健康に悪そうだな」
「長期的に使えば、そうかもね……。一応、短期なら影響がないってデータが取れてるよ」
「データって。どうやって調べたんだ?」
「つい最近ね。この栄養剤を五十本まとめて買った人がいてさぁ」
「五十本!? ってことは、全部で四十万円かよ! はぁー、羽振りのいい奴がいたもんだなぁ」
思わず、感心してしまう。
「ああ。おかげで、研究費には困らないよ。で、その人が言うには、一ヶ月ほど連続で使ってみたけど、ラビスコープの診断では健康を維持したままだったらしい」
理央は肩をすくめた。
「ま、ラビスコープで読み取れる健康状態が、全てじゃあないけどね……。少なくとも十回前後使ったくらいじゃ、影響はでないみたいだね。で、どうする? お兄さん」
メガネの奥の目が、楽しそうに細められる。
「買うの? 買わないの?」
たとえ話が本当だったとしても、大切なダンジョンスプラウトにこんな怪しい薬を使う気にはなれない。
一週間を三日にって。時間を歪めるなよ。
ジャック・ハンマーじゃあるまいし。そもそも俺、平日は会社だし。
俺は、六本千円の栄養剤を手に取った。
「これ、三つくれ」
「毎度ぉ」
……まあ、こっちなら問題ないだろう。
メーカー品と同じだって言うし。
この怪しげな女の言葉を信じるならば、だが。




