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深水常之宮 撤退ログ

『深水常之宮』


 第一層


 入口は静かだった。

 歴史を感じさせるような(こけ)むした古い壁に、長い年月の湿気が染みついていた。

 所々にスライムが張り付き、冷たく淡い光を周囲に投げかける。

 ほとんどのスライムはおとなしい。

 だが、近づくと襲ってくるやつもいる。

 まずは、小手調べ。

 この程度で怯む我々ではない。


 第二層


 水が流れている。水位は足首までだ。

 地味だが、確実に体力を奪う仕掛けだ。

 歩くだけで脚が重い。

 水の中から手が伸びる。

 ウォーターハンド。水が腕の形を取り、足首を掴む。

 仲間の一人が連れ去られ、救出のために体力を削られた。

 だが、五人全員で進む安心感には代えられない。


 第三層


 細い通路。

 だが、水位が膝上までに増している。

 加えて、水が逆流している。

 まるで川を登るような流れだ。

 足を取られる。

 一歩進むだけで体力が削られる。

 流れの中には、石が混じっている。

 それがぶつかってくる。

 ここは戦う場所ではない。

 ただ耐え、踏みしめ、押し流されないように進むしかない。 

 この通路を抜けた頃には、またかなり体力を削られていた。


 第四層


 部屋に入った途端、背後で扉が閉ざされ、水が押し寄せてきた。

 水位はゆっくりと上がり、部屋は満水になる。

 ──息は、どれだけ持つのだろう。

 戦いながらの時間制限だ。

 ここを守るのは、ハイドロドラゴン。

 濁流そのものが巨大な龍となり、部屋の中をうねるように回っている。

 斬っても砕けるだけ。すぐに元の形に戻る。

 渦の中心に、一人が突っ込んだ。

 そこには、水門のハンドルがあった。

 濁流の牙が襲いかかる。爪や尾が絡みつく。

 それでも手を伸ばし、ついには水を排除することに成功した。


 ここで休む。

 長く休む。

 しかし、水を排除した一人は目を覚まさなかった。

 一人欠け、我々は四人となった。


 第五層


 この階層には霧が満ちていた。

 視界はほとんど役に立たない。

 壁沿いに進むか、中央を目指すかで意見が割れた。

 試しに一周してみたが、景色は変わらない。

 広いフロアの中央どこかに、上層への道があるのだろう。

 霧の中を進み始めたが、前後左右の見分けすらつかない。

 濃霧をかき分け、影が飛び出す。

 ウォーターサーペントだ。鋭い牙で、確実に体力を削りに来る。

 這うというより、水面を滑るように迫ってくる。

 この水蛇により、三人の仲間が倒れた。

 ここで初めて、音に耳を澄ます。


 滴る水。

 滴る水。

 滴る水。


 リズムがある。

 この階層には天井から水が滴る場所がいくつもある。

 その音の位置だけは、霧の中でも変わらない。

 視界は奪われても、音は消えない。

 音を基準にすれば、自分たちの場所がわかるのだ。


 階段は、どこかにあるはずだ。

 例え、この霧がどれだけ迷わせようとも。

 音さえ失わなければ、必ず辿り着ける。


 だが、しかし――

 残されたのは、自分ただ一人。


 撤退しよう。

 また挑めばいい。

 気を失った仲間の身体を引きずりながら、壁を目指した。


 帰還後


 水面を覗けば、己の顔が映る。

 深みを覗く者は、いずれ水底から見返される。

 静かな水ほど深い。

 深い水ほど、何を沈めているのか分からない。

 我々はまだ、あのダンジョンの“上澄み”しか見ていない気がする。


 翼は折られても、空の飛び方までは忘れていない。

 我々『中級者』の意地を、次こそ見せよう!

 ――今度は、あの霧が何を隠しているのか確かめるために。


 ダンジョン攻略失敗 五層目 経験値925

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