はじめてのせんてい
剛に車で自宅まで送ってもらい、帰宅した。
買おうと思ってたストゼロは買い忘れた……だけど、アルコールを身体に入れたい気分だった。
冷蔵庫を見ると、缶ビールが一本だけ残っていた。
プルタブを起こして、口をつける。よく冷えてる。美味い。
窓際に行き、ダンジョンスプラウトの前に座り込む。
今日の撤退がショックだったのか、ラビリミンたちは外に出て、今の俺みたいに座り込んで、地面を見つめている。
俺はあの嵐の夜、このダンジョンスプラウトの命を救った。そして同時に、人生を救われた。
ただ生きるだけの灰色の日々に、こいつらが色を与えてくれた……。
家に帰って鉢植えを見下ろすだけで、毎日が楽しいって思えた。
辛い労働で金を稼ぐのが、意味あることだって思えた。
自分の食事は抜いたって、園芸用の栄養剤は欠かさなかった。
どれだけ疲れてても、眠くても、ダルくても……週一のレイド会は待ち遠しかった。
凛花と仲良くなれた。
みのりとも知り合えた。
コロちゃんとも出会えた。
俺の夢。俺のダンジョンスプラウト!
俺だけのダンジョンが、俺が育てたダンジョンが、目の前にある!
別れ際に、剛が言ったセリフが蘇る。
「君が、愛玩や鑑賞目的でダンジョンスプラウトを育てたいなら、僕のしたことは酷いおせっかいだ。でも……少しでも強くなりたいと願うなら、これを使うといい」
そう言って渡されたのは、剪定用のハンマーだ。
片側は角を落とした平打面。反対側のピックは細く長く、細かい部分をピンポイントで叩ける形状。
軽くて、狙った所に当てやすい。それでいて、確実に砕くための質量を感じる。
俺はハンマーを持ち上げた。ずっと気になってた箇所がある。
そこだけ、妙に光沢が薄れてる気がする。
一度だ! この一度だけで、見極める。
もしも反応がNOならば、二度と傷つけたりしない。
このハンマーは封印し、一生をかけて守り抜くと誓おう。
震える手でハンマーを振り下ろす。
カシャリ、小さな音がして、ダンジョンに穴が開いた。
音に気付いたラビリミンたちは立ち上がって、穴が開いた所にワラワラと集まってくる。
しばらく、(´・ω・`) アチャーみたいな顔で何やら相談していたが、急に୧(`•ω•´)୨よし、やるか。みたいな顔になって、鉢植えの資材を取りに来た。
その姿は、先ほどの負けて落ち込んでる姿より、ずっと生き生きとして見えて……。
「……ハハ。こいつら、全然やる気じゃん!」
一匹が、俺に気付いて敬礼 (*>ω<*)ゞをする。思わず、俺も敬礼を返す。
そうだよな? なに一回負けたくらいで、ショック受けてんだ。俺は。
手の中のハンマーを見下ろした。
武骨な見た目だ。余計な装飾は何もない。飾り文句もない。刻印はメーカー名のみ。
ただ使い込むほどに、鋼の地肌に小さな傷が増えていく。
まるで、勲章みたいに……。
それが今日。ひとつ刻まれた。
トレーニングジム『マッスル・サンクチュアリ』か。
強くなるために、また行ってみてもいいかもな。
「よぉーっし! やってやりますか! へっ、ブラック企業の社畜の根性なめんなよ……心が折れる? ああ、毎日な。だけども折れた心で、翌朝ちゃんと出社するんだよ!」
俺はようやくのぼりはじめたばかりだからな。
このはてしなく遠いダンジョンスプラウト坂をよ……。
この物語を『未完』にしてたまるもんか!




