強さのヒミツ
他の植物でも成長の妨げになる枝葉を切ったり、大きな実や綺麗な花をつけるため、普通に剪定はするらしい。
だが、ラビリミンたちが一生懸命に作り上げたダンジョンを壊すなんて……可哀相だ。
正直、見ててあまり気分のいいものではない。
俺がそれを伝えると、剛は苦笑いした。
「それは、初心者にありがちな誤解だな。ダンジョンの修復は、ラビリミンにとって日常の一部だ。自然界のダンジョンスプラウトだって、獣や嵐や地震なんかで、ダンジョンは壊れてしまうだろう? むしろ作ってから一度も破壊されないダンジョンの方が、ラビリミンにとっては不自然だ」
「まあ、そりゃそうだけど……」
剛は、巨大な腕の筋肉を見せつけながら言った。
「破壊なくして、肥大なし! 作り直されたダンジョンは、より強く、より複雑になって復活する。ただ、無秩序に壊すんじゃない。愛情をもって、壊すんだ。それに剪定はね、レイド相手のためにもなるんだよ」
「相手のため? それは、どういうことです」
「同じダンジョンを繰り返しクリアすると、得られる経験値は減っていく。けれども剪定によってダンジョンが変化した分は、減らずにその分もらえるんだ。ボーナスみたいなものだね」
なるほど。
そう聞くと、それほど悪くない行為に思えてきたな。
剛は言葉を続ける。
「みのりさんの『そよそよ若草ダンジョン』も、僕のアドバイスで剪定が加えられている。ラビスコープの表記上はレベル10だが、ダンジョンの難易度はレベル12相当はあったはずだ」
「あ。それじゃあ、『深水常之宮』の異常な強さって……もしかして……!」
ふと、思いつく。
経験値を失ってレベルが下がるのは、レイドをしばらくしてない時と、ダンジョンを修復する時。
だが、お爺ちゃんっ子のコロちゃんが祖父の死後、傑作とまで言われたダンジョンスプラウトを放置していたとは思えない。
「……壊れたのか?」
俺の呟きに、剛は重々しく頷く。
「そうだ。『深水常之宮』は、一度大きく壊れている。それをコロちゃんが、経験値を稼いで修復している最中なんだ」
状態の『弱っています』の表記は、文字通りの弱体化だ。
道理でレベルと蓄積されたログの数が、まったく合ってなかったわけだ。
「とはいえ、元が高レベルのダンジョンだからね。レベルが下がって大きさが縮んでも、中には高難度の罠がいくつも残っている。ラビリミンも一体一体が、歴戦の猛者だ。多少の初見殺しなら、突破できる知恵と力がある。これが、数値に表れない強さの秘密だよ」
俺はソファにもたれて、息を吐く。
それから目の前に置かれたココア味のプロテインを、一気に飲み干した。
まるで、何かの挑戦状を受け取るが如く。
カン! 音を立てて、カップを置く。
「ッぷふぅー。色々と疑問が解けたよ。でも、まだわからない。……なあ、剛さん。なんで、あんたはそんな裏でコソコソ動き回ったり、こんな風に回りくどい真似までして、俺に色々と教えるんだ?」
彼は、ダンジョンスプラウトのトレーナーだ。
本来ならば金を取って教えることを、なぜタダで。
しかも無駄な労力をかけてまで、俺に教える?
そう問いかけると、剛は白い歯をむき出してニカリと笑った。
「君に『ダンジョンスプラウト』の面白さを知って、もっと夢中になって欲しいんだよ! ……だってそうだろう? 世にもレアな『冥』属性のダンジョンを芽生えさせた君が、飽きて辞めてしまうなんて。そんなの、あまりにもったいないじゃないか!?」
もっともらしい事を言ってる。だけど、本当にそれだけか……?
少し引っかかる。もっと直接的な、彼の『得』になる何かがあるんじゃないか。
そんな疑問が顔に出ていたのだろう、剛は歯をしまって軽くほほ笑む。
「君にもすぐわかるよ、玄君。ダンジョンスプラウトはね、一人じゃ強くなれないんだ。より高みを目指すには、同じ志を持つともがいるとね」
その言葉。俺はこの人の言う『とも』が、強敵と書いてともと読むのだと。
直感的に、そう思った。
剛は立ち上がると、俺に手招きする。
「いい機会だ。君に見せてあげるよ。これが、僕のダンジョンスプラウトだ」
それは事務所の衝立の後ろ、日当たりのいいポカポカとした場所にあった。
まるでピラミッドを思わせるような、黄褐色の石が積み上げられた、その威容。
デカい。それに、高い! 確実に十層以上はある……。
スマホを取り出し、ラビスコープを起動した。
ダンジョン名:テラ・バルク・バスティオン
レベル:28
経験値:420529
属性:土
冒険ログ:361
状態:極めて良好です。
読み取れる情報は、それで全部だ。
高レベルのダンジョンスプラウトなら、テーマパークで何度も見た。
だけど、違う。……理屈ではなく、感覚でわかる。
このダンジョンからは、漲るようなパワーが溢れている。そんな気がする。
午後の日差しにキラキラと輝く、金色のオーラをまとったダンジョンスプラウトに、言葉も出せずに見惚れていると、剛が静かな声で言った。
「教えが欲しければ、また来るといい。君なら、いつでも歓迎するよ」




