深水常之宮
コロちゃんのダンジョンは、竹などが使われた和風の見た目で全七層。
高校生が育てたにしては、なんというか渋さを感じる……侘び寂びというか、風流というか。
ラビリミンも、俺の五体より多い六体だ。
虫眼鏡で観察してるが、な、なんだろう……?
持ってる武器が、やけに年季が入って見える。佇まいも落ち着いてて、これまでレイドしてきたラビリミンとは、少し違った雰囲気だ。
橋の上で互いに敬礼しあって、レイド開始。
俺らはパイプ椅子を持ってきて、ランチ開始。
今日は、幕の内弁当を買った。
のり弁ほど安くもなく、カラアゲ弁当ほどボリュームもない。
食べたいものが決まらない時の、『消去法の幕の内弁当』だ。
まあ、オカズは色々と入ってる。エビフライとか。カボチャの煮物とか。ピンク色の謎の漬物とか。
コロちゃんは、焼きそばパンやコロッケパンなどの惣菜パンと、公民館の自販機で買ったカルピスソーダ。
……ソース味が好きなのかな??
食事中にコロちゃんと話したのだが、なんでも彼の両親は、女装のことは知らないらしい。
可愛い服に興味を持ち始めたのは中学生の頃。しかし父も母も、そうしたことにはきっと強く反対する人で、とても打ち明けられなかったそうだ。
思い悩んで祖父へと相談したところ、「好きに使いなさい」と部屋の一室とクローゼットを貸してくれ、ついでに服を買うためのお小遣いまでくれたのだとか。
焼きそばパンを齧りながら、コロちゃんは言う。
「お、お爺ちゃん、このままじゃカイリセーナントカになっちゃうからって……」
「カイリセー? ……解離性人格障害かな。二重人格とか、自分が何をしてたか忘れちゃったりとかする病気だよ。お小遣いまでくれるなんて、いいお爺ちゃんだね」
「は、はい。去年、死んじゃったけど」
「……あああ。ごめん」
コロちゃんは前髪に手をやり、懐かしむような声で言う。
「い、いいんです! お爺ちゃん、好きなこと全部やって、いつも笑ってて、とても静かに亡くなりましたから。このヘアピンも、お爺ちゃんからのプレゼントなんです」
へえ。孫にここまで言ってもらえるなんて、本当に良い人生だったらしい。
それにしても、コロちゃんのラビリミン。
俺の『サービス残業お断りダンジョン』で、ずいぶんと粘ってるな……。
いつも誰を相手にしても、ものの数分で終わってたのに。
と、『深水常之宮』から、俺のラビリミンがキューキュー鳴きながら出てきた。
五匹中、四匹が気絶している。残った一匹が、四匹の身体を順番に引きずってる。
そのブルーな身体の色と(´;ω;)な顔を見て、俺は悟った。
「げっ!? て、撤退……?」
初めての撤退である。
さらに十五分後、俺の『サービス残業お断りダンジョン』から、コロちゃんのラビリミンが出てくる。
六匹中四匹が気絶してる。
それでも、その誇らしげな(*≧д≦)な顔を見れば、踏破したのは明らかだ。
「えええっ! 嘘だろ!? ……まさか! 俺のダンジョンを初見で踏破!?」
「わ、わあ。こ、この子たちがこんなに手こずったの、初めて見ました! 玄さんのダンジョン、やっぱり凄いんですね」
コロちゃんの声は、もう耳に届いていなかった。
俺はその場に立ち尽くし、ただ呆然とした。
これまでも踏破されたことはある。
だがそれは、何度も何度も挑まれた末の結果だった。
今回は違う。互いに初見。俺は撤退し、相手は踏破した。
――つまり。
俺は、完全に。言い訳の余地もなく。
完膚なきまでに、敗北したのだ。




