故障したらボンてなるやつ
毎週日曜のレイド会も、日常の一部になりつつあった。
そんなある日、中級者以上のフロアで今日の相手を探していると、後ろから声をかけられる。
「あ、あの……。『サービス残業お断りダンジョン』の玄さんですよね?」
振り向くと、フリルたっぷりのブラウスに、チェックのハイウエストスカート、丸みのあるパンプス。
長めの前髪をサイドに流し、骨のヘアピンで留めておでこを見せている
こりゃまた、ずいぶん可愛らしい服装の子が来たな!
「ああ、はい。俺は伏見玄です。えっと、君は?」
「自己紹介します。ボ、ボク、桃園こしろうです」
「こしろう?」
ちょっと変わった名だった。
思わず聞き返す。
「は、はい。動物の虎に、生き死にの死。つゆと書いて露に、最後は羽ばたく羽です」
「……桃園虎死露羽」
前言撤回。
ちょっとどころじゃなく、変わってるわ。
「な、なんか、勇ましい名だね。男の子みたいだし」
「えっと。ボク、男です」
「……えっ」
「あ、あのう。へ、変ですか?」
「へえー! 君は、男の子なのか……可愛い、可愛い! いやぁ最近の子は、マジでどっちかわからんなぁ!」
いや、ホント。
女の子かと思ったぞ!
俺が褒めると、その子は屈託なく笑う。
「え、えへへ。や、やったあ……あのう。よかったら、ボクのことは『コロちゃん』って呼んでください」
「コロちゃんね。うん、いいよ。わかった」
虎死露羽君より、ずっと言いやすい。
でも、コロちゃんか。なんか、犬みたいだな……。
そういえば太めの眉毛と尖った犬歯が、柴犬みたいに見えてきた。
俺がそんなことを思っていると、モジモジしながらコロちゃんは言った。
「げ、玄さん。よ、よろしければ……今日はボクとレイドしませんか……?」
引っ込み思案な子が、一生懸命に誘ってる感じだ。
断る理由も特にない。
俺は頷く。
「ああ、いいよ。レイドしよっか」
コロちゃんは、ペコリと頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
互いの鉢植えを近くに寄せて、ダンジョンスプラウト読み込みアプリ『ラビスコープ』で情報を読み取る。
ダンジョン名:深水常之宮
レベル:17
属性:水
経験値:13986
冒険ログ:1056
状態:弱っています。
レベル17か。俺のラビリミンは連戦連勝。いまだ負け知らずである。
相手の方が2レベル上だが、もう何も怖くない。
冒険ログは……1056゛!?
い、いやいや。ありえないだろッ!
だって一年間は五十二週しかないわけだから、毎週一回レイドしても……。
ええと、二十年以上かかるわけか。
……どう見ても未成年だけど、実は年上の可能性が出てきたな。一応、聞いておくか。
「コ、コロちゃんって今、何歳かなぁ〜?」
「ボ、ボクですか? 十六歳の高二です……」
ああ、よかった! 見た目通りの年齢だ。
女装にキラキラネームに童顔見た目詐欺なんて、いくらなんでも設定過多だからな。
という事はこれは、ラビスコープのバグだろう。
「チッ、スカウターが故障しやがったか……」
「えっ。な、なんですか……? こ、故障?」
「あ。いやいや、なんでもないよ!」




