第074話: 鉄の城(ベースキャンプ)
ラプター肉のハンバーグを振る舞うと、アイリスは目を丸くして食べていた。
「……こんな美味いもの、初めて食べた。それに、この柔らかさはなんだ……」
どうやら胃袋の掌握は成功したらしい。
「アイリス、僕たちはこの島を調査したいんだ。しばらくの間、拠点を作りたいんだけど、安全な場所を知らないかな?」
「安全な場所か……。それなら、あそこの高台がいい。見晴らしがよく、大型の獣も登ってこれない」
彼女が案内してくれたのは、ジャングルを見下ろす岩場の上だった。
確かにここなら守りやすい。
「ありがとう。よし、ここに『ベースキャンプ』を設置しよう」
僕はキャンピングカーを平らな場所に停車させ、ナビに指示を出した。
「ナビ、要塞モード(フォートレス・モード)展開!」
『了解。アウトリガー展開、車両固定。全方位センサー、起動。防御結界、範囲拡大』
ガシャン! ガシャン! と重厚な音が響き、キャンピングカーから金属の支持脚が伸びて地面に突き刺さる。
さらに、車体を中心にドーム状の結界が広がり、安全地帯を作り出した。
「な、なっ……!? 家が……変形した!?」
アイリスが腰を抜かさんばかりに驚いている。
「お前たち、一体何者なんだ……? これは魔法なのか?」
「まあ、似たようなものかな。さあ、中に入って。涼しいよ」
車内に招き入れると、彼女はさらに驚愕した。
「す、涼しい……! 外はあんなに暑いのに!」
「エアコンが効いてるからね」
「水が出る!? しかも冷たい!」
「冷蔵庫もあるよ」
現代の文明利器の数々に、野生児アイリスは完全にカルチャーショックを受けていた。
冷たいコーラを飲ませた時は、「シュワシュワする! 毒か!?」と武器を構えたほどだ。
「……信じられない。お前たちは、神の国から来たのか?」
「ただの旅人だよ。ちょっと便利な道具を持ってるだけのね」
僕は笑って答えた。
アイリスはまだ警戒心を解ききれないようだが、コーラの味(毒じゃないと分かった後はお代わりした)と、フカフカのソファの魅力には抗えないようだ。
「……分かった。お前たちを信じよう。だが、この島の奥地にある『遺跡』には近づくな。あそこは……入ってはいけない場所だ」
彼女の表情が曇る。
どうやら、何か秘密があるらしい。
「遺跡……ですか?」
「ああ。私はその遺跡を守るためにここにいる。……一族の掟だからな」
彼女は多くを語ろうとしなかった。
だが、その瞳には深い孤独の色が宿っていた。
その時、ナビの警報音が鳴り響いた。
『警告。上空に強力な魔力反応。急速接近中』
「魔力反応? 翼竜か?」
『いいえ。この反応パターンは……』
ドォォォォン!!
突然、ベースキャンプのすぐ近くに何かが墜落した。
土煙が舞い上がる。
「て、敵襲か!?」
「いや……あの人影は……」
土煙の中から現れたのは、優雅に土を払う幼女――大賢者ソフィアだった。
「ごほっごほっ。……まったく、転移座標が少しずれたかのう」
「「「ソフィア!?」」」
空から降ってきた最強の援軍に、僕たちは開いた口が塞がらなかった。




