第073話: 野生の少女アイリス
ラプターの襲撃を退けた後、僕たちはさらに奥へと進んだ。
水源と、安全な拠点を確保するためだ。
「それにしても、腹が減ったねぇ」
「さっきのトカゲ、食べられないかな?」
ルナとララが、倒したラプターの死体を前に相談している。
ナビの簡易解析によると、毒はないらしい。
試しに一部を切り取って確保しておく。
その時だった。
ヒュンッ!
風切り音と共に、何かが目の前を横切った。
それは僕の足元の地面に突き刺さる。
石の鏃がついた、原始的な『矢』だ。
「誰だ!?」
僕たちが警戒して周囲を見回すと、大木の枝の上に人影があった。
獣の皮を纏い、顔に迷彩ペイントを施した少女だ。
手には弓を持ち、つがえた矢をこちらに向けている。
「……私の島から出て行け、侵入者ども」
低い声で警告してくる。
言葉は通じるようだ。
「待ってくれ! 僕たちは怪しい者じゃない! 嵐で漂着しただけだ!」
「嘘をつくな。お前たちの連れている『鉄の箱』……あれは災いを呼ぶ」
彼女はキャンピングカーを敵視しているようだ。
問答無用で第二射を放とうとする。
「待って! その人の匂い……悪い人じゃない!」
ララが前に飛び出した。
そして鼻をクンクンとさせる。
「悲しい匂いと、寂しい匂いがする……。お姉ちゃん、一人ぼっちで頑張ってる匂い!」
「なっ……!?」
少女の動きが止まった。
図星だったらしい。
「私たちが敵なら、さっきのトカゲみたいに攻撃してるよ。でも、してないでしょ?」
「……確かに、お前たちの実力なら、私を殺すのは容易いはず」
彼女はゆっくりと弓を下ろし、木から飛び降りた。
近くで見ると、日に焼けた肌と引き締まった肉体美を持つ、野性的な美少女だった。
「私の名はアイリス。……この島の守人だ」
「僕はユウ。こっちは……仲間のララだ」
ララがニカっと笑って手を差し出すと、アイリスはおずおずとその手を握り返した。
「……お腹、空いてない?」
「え?」
「ぐぅ〜」
アイリスのお腹が可愛らしい音を立てた。
彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。
「……少しだけ、話を聞いてやる。ただし、妙な真似をしたらすぐに射抜くからな」
どうやら、胃袋を掴むチャンスのようだ。
僕はアイテムボックスから調理器具を取り出した。
さっき手に入れたラプターの肉で、ハンバーグでも作ってみようか。
野生の少女との交流は、やはり「食」から始まるのだ。




