SS: 深海の味覚極まれり(ユウ視点)
「よーし、今日はとっておきの『アビス・サーモン』のフルコースだ!」
キャンピングカーのキッチンで、僕は気合を入れて腕まくりをした。
マリーナ姫からお土産として大量に貰ったこの巨大な魚。ナビに鑑定させてみたところ、『Sランク食材:食べた者の魔力を永続的に微増させる』という、ゲーマーなら目の色を変えるようなトンデモ効果が表示された。
だが、今の僕にとって重要なのはステータス上昇効果ではない。何よりもその『味』だ。
「まずは基本の刺身。……うまいっ!!」
鮮やかなオレンジ色の切り身を一切れ口に入れると、濃厚な脂の甘みが爆発し、舌の上でとろけるように消えた。
普通のサーモンとは比較にならない。深海の高水圧で鍛えられた身は適度に引き締まっており、それでいて脂の乗りが尋常ではないのだ。臭みなど微塵もなく、ただただ旨味の塊である。
「次はムニエルだ。小麦粉を薄くはたいて、バターで皮目をパリッと焼いて……」
ジュワァァァ……という心地よい音と共に、焦がしバターの香ばしい匂いが車内に充満する。
仕上げにレモンをひと絞り。完璧だ。
さらに、脂の乗ったアラを使った味噌汁(味噌は以前訪れた街で確保しておいた貴重品だ)も鍋の中でクツクツと煮えている。
「みんなー! 効果も味も最強の晩ご飯ができたよー!」
僕が声を張り上げると、ドタドタという足音と共に、待ち構えていた三人が食堂へとなだれ込んできた。
特にララは、涎を垂らさんばかりの勢いだ。
「いただきまーす!」
車内に幸せな悲鳴が響く。
深海の秘宝は、魔力だけでなく、僕たちの心と胃袋をも満たしてくれたのだった。




