第069話: 響け、癒やしの歌声
ズガァァァンッ!!
ミスリル製の衝角がシーサーペントの眉間に深々と突き刺さった。
硬い鱗を貫き、確かな手応えが伝わってくる。
ギャアアアアアッ!
怪物が苦悶の叫びを上げ、のたうち回る。
キャンピングカーは反動で後退し、距離を取った。
「やったか!?」
『敵の生命力、低下を確認。しかし、まだ活動可能です。……暴走状態に入りました』
追い詰められたシーサーペントは、手当たり次第に周囲を破壊し始めた。
建物が崩れ、瓦礫が舞う。
このままでは、街が全滅してしまう。
「どうすれば……!」
「マリーナ姫、今です!」
僕は助手席の彼女に向かって叫んだ。
「貴女の歌で、暴走を止めてください! 結界を修復するんです!」
「で、でも……こんな轟音の中で、私の声なんて……」
『大丈夫です。私のシステムを使ってください』
ナビが車外スピーカーの出力を最大にした。
『貴女の歌声(波長)を増幅し、都市全域に放送します。貴女はただ、心を込めて歌うだけでいいのです』
「ナビさん……ユウ様……」
マリーナ姫は僕たちの顔を見て、最後に自分の胸に手を当てた。
そこには、さっきのリサイタルで得た自信が確かに残っていた。
「……はい! 私、歌います!」
彼女は深呼吸し、歌い始めた。
それは先程の車内での歌とは違う、祈りの歌だった。
アァァァァ……♪
透き通るような歌声が、スピーカーを通じて爆音のように――いや、清らかな波動となって海中に広がっていく。
その歌声に触れた瞬間、荒れ狂っていた水流が静まり返った。
ギャ……?
暴れていたシーサーペントの動きが止まる。
その赤い瞳から、狂気が消えていく。
マリーナ姫の歌声には、魔物を鎮める強力な鎮静効果があったのだ。
さらに、砕け散っていたドームの結界が、歌声に呼応するように輝き出した。
光の粒子が集まり、穴を塞いでいく。
「すごい……これが、人魚姫の力……」
セリスが息を呑む。
マリーナ姫は汗だくになりながらも、最後まで歌い切った。
最後のフレーズが消え入るように終わると、シーサーペントは大人しくなり、くるりと背を向けて深海へと去っていった。
完全に戦意を喪失したようだ。
「……やりました、姫様」
「は、はい……私、守れました……!」
マリーナ姫の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは真珠のように美しく輝き、床に落ちた。
都市には大歓声が響き渡っている。
僕たちは顔を見合わせて笑った。
今回もまた、いい仕事ができたようだ。




