第064話: 海底都市アトランティア
歌声の発信源に近づくと、その全貌が明らかになった。
海底盆地の中央に、巨大なドーム状の結界に覆われた都市があったのだ。
白亜の塔が立ち並び、街灯のように輝く珊瑚が道を照らしている。
「すごい……本当に海の中に街があるなんて」
「アトランティスみたいだねぇ」
ルナが感心したように言う。
僕たちが都市に接近すると、都市の入り口付近から何かがこちらに向かってきた。
半身が人間、半身が魚の姿をした騎士たち――半魚人の警備隊だ。
「止まれ! 貴様ら、何者だ!」
彼らは手に槍を持ち、威嚇している。
水中でも言葉が通じるのは、ナビの車外スピーカーと翻訳機能のおかげだ。
「怪しい者じゃありません。僕たちは地上の旅人です」
「地上の旅人だと? そのような鉄の塊に乗ってか? 笑わせるな!」
警備隊長らしき男が槍を構える。問答無用で攻撃してきそうだ。
『脅威度判定:D。武装解除は容易です』
「待ってナビ、攻撃しちゃダメだ。穏便にいこう」
僕が説得を試みようとした、その時だった。
「お待ちなさい!」
凛とした声が響き渡った。
警備隊が道を空けると、そこには一人の少女がいた。
長い黄金色の髪を揺蕩わせ、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女。
下半身は美しいピンク色の鱗に覆われた魚の尾びれになっている。
「マリーナ姫!」
「いけません、姫様! このような不審者の前に!」
「いいえ、不審者ではありません。この方たちからは、悪意を感じませんわ」
彼女――マリーナ姫は、好奇心に輝く瞳でキャンピングカーを見つめた。
「それに……私、気になりますの! その不思議な鉄のクジラ! 一体どうなっているのですか?」
彼女は結界を通り抜け、キャンピングカーの目の前まで泳いできた。
窓越しにララと目が合う。
「わあ、人魚のお姫様だ! きれい!」
「まあ、可愛い獣人のお嬢さん! 貴女も中に乗っているの?」
マリーナ姫は窓に手を当て、興奮気味に言った。
「旅の方、よろしければ我が都市『アトランティア』へ招待させていただけませんか? 地上のお話、もっと聞きたいのです!」
どうやら、随分と積極的なお姫様のようだ。
僕たちは顔を見合わせ、頷いた。
断る理由はない。
「喜んで。お招きに預かります」
こうして僕たちは、海底都市アトランティアへの入国を許可されたのだった。




