第063話: 深海の光
深度500メートル。
そこはもう、太陽の光が届かない闇の世界だった。
キャンピングカーの強力なサーチライトだけが、前方を照らし出している。
「暗いねぇ。何も見えないよ」
「怖くないもん! ララ、お化けなんて怖くないもん!」
ララが僕の服の裾をギュッと掴んでいる。
尻尾が足の間に挟まっているので、相当ビビっているようだ。
『深度さらに低下。水圧上昇中ですが、船体強度に問題ありません』
ナビの冷静な声が頼もしい。
暗闇の中を進んでいくと、ふと、暗闇の中に小さな光の点が現れた。
「あれ、なんでしょう?」
「蛍?」
近づいてみると、それは自ら発光する不思議なクラゲの群れだった。
透明な傘の中に青白い光を宿し、ゆらゆらと漂っている。
「うわぁ……幻想的だね」
さらに、提灯のような光をぶら下げたアンコウ型の魚や、虹色に光る帯のような生物も現れた。
深海は暗闇ではなく、光のパレードだったのだ。
「きれい……星空みたいです」
セリスがため息をつく。
水深数百メートルの海底で見る星空。なんと贅沢な体験だろうか。
その時だった。
『……音響センサーに反応あり。微弱ですが、規則的な周波数をキャッチしました』
ナビがモニターに波形を表示する。
「これは……歌?」
「歌声、ですね。とても悲しそうな……でも、美しい旋律です」
耳を澄ますと、確かに聞こえる。
車内のスピーカーを通して、透き通るような女性の歌声が響いてきた。
言葉は分からないが、心に直接訴えかけてくるような響きだ。
『発信源を特定。南南東、距離2キロ。海底盆地の中央にある構造物からです』
ナビが地図を拡大する。
そこには、人工的なドーム状の影が映っていた。
「間違いない。伝説の海底都市だ」
「そこに人魚がいるんだね!」
僕たちは顔を見合わせた。
恐怖はもうない。
あるのは、未知への好奇心だけだ。
「よし、行こう。その歌声の主のもとへ」
キャンピングカーは静かに回頭し、深海の闇の中、その歌声に導かれるように進んでいった。




