第008話: ネットスーパー
翌朝。
リビングのソファで丸くなって寝ていた女盗賊が、むくりと起き上がった。
昨夜のカップ麺の空容器がテーブルに転がっている。
「んぅ……。……はっ! そうだ、私は捕まったんだった!」
彼女が慌てて周囲を見回すと、ちょうどゲストルームのドアが開いた。
「おはようございます、ユウ様。……あら?」
寝ぼけ眼のセリスが出てきて、女盗賊と目が合った。
「……」
「……」
数秒の沈黙の後。
「ひゃっ……!? く、黒い服の方が……!?」
「うわあああっ!? なんだこの白い女は!?」
朝から盛大な悲鳴が二重奏で響き渡る。
僕は寝室からあくびをしながら出てきた。
「うるさいなぁ……。おはよう、二人とも」
「ユウ様! 不審な方がいらっしゃいます! もしや、泥棒でしょうか!?」
「誰が泥棒だ! 私は義賊だ!」
セリスの後ろに隠れる聖女と、ソファの上で威嚇する盗賊。
カオスな朝だ。
「とりあえず落ち着いて。こいつは昨日の夜、車に侵入しようとしたところを捕まえたんだ」
「侵入……! まあ、なんて恐ろしい……!」
「失敗したけどな。……で、名前は?」
僕が尋ねると、女盗賊はフンと鼻を鳴らした。
「……ルナだ」
「そうか、ルナ。で、どうする? このまま最寄りの街の衛兵に突き出してもいいんだけど」
「そ、それだけは勘弁してくれ! 私にも事情があるんだ!」
ルナは必死に懇願する。
どうやら衛兵には突き出されたくない事情があるらしい。
「なら、取引だ。次の街までの案内をしてくれ。この辺りの地理には詳しいんだろ?」
「……む。まあ、この森の抜け道くらいなら知っているが」
「よし、決まりだ。案内料として、街に着くまで飯は食わせてやる」
「本当か!?」
ルナの目が輝く。昨日のカップ麺の味が忘れられないらしい。
チョロいな、この盗賊。
「あの、ユウ様。この方は……」
「ああ、一時的な案内役だよ。セリスもいいかな?」
「はい、ユウ様が決めたことなら……。でも、ご飯はどうするのですか? もう食材が……」
セリスが心配そうに冷蔵庫を見る。確かに、昨日の朝食で卵もパンも使い切ってしまった。
「大丈夫。ちょうど補充しようと思ってたんだ」
僕はキッチンの壁にあるタッチパネルを操作する。
画面には『異世界ネットスーパー』の商品一覧が表示されている。
「えっと、卵と牛乳、食パン。あとルナ用にカップ麺の買い溜めと……お、新商品のプリンがあるな」
ポチポチとカートに入れ、購入ボタンを押す。
『決済完了。魔力ポイントを消費しました』
電子音と共に、デリバリーボックスの中に次々と商品が出現した。
「「えええええっ!?」」
セリスとルナが同時に声を上げる。
「な、なんですか今の!? 何もないところから卵が!?」
「空間転移魔法か!? いや、それにしては魔力の波長が……!」
「僕のスキル【マイホーム】の機能だよ。魔力を対価に、遠くの店から商品を取り寄せられるんだ」
まあ、その「遠くの店」が異世界(日本)にあるとは言わないでおくけど。
「す、すごいです……! これなら、どんな荒野でも生きていけますね!」
「ああ。だから食いっぱぐれることはないよ。……さ、朝飯にしようか」
僕は買いたての食材を冷蔵庫にしまいながら言った。
ルナは山積みのカップ麺を見て、ゴクリと喉を鳴らしている。
こうして、騒がしい三人旅が始まったのだった。




