第062話: 天然の水族館
『深度100メートル。サンゴ礁エリアに到達』
その光景に、車内から感嘆の声が上がった。
目の前に広がっていたのは、色とりどりのサンゴの森と、そこを泳ぐ無数の魚たちだった。
赤、青、黄色。宝石のような魚群が、キャンピングカーのライトを受けてキラキラと輝いている。
「きれい……! お花畑みたい!」
「本当ですね。こんな景色、見たことありません」
ララとセリスが窓に張り付いて離れない。
まさに「天然の水族館」だ。しかも、ガラス一枚隔てただけの特等席。
「あ! お兄ちゃん見て! カクレクマノミみたいなのがいるよ!」
「本当だ。イソギンチャクの中で寝てるね」
ララが見つけたのは、オレンジと白の縞模様が可愛い小魚だった。
平和だ。
ここが過酷なダンジョンの一部だとは信じられないくらいに。
と、その時。
『警告。大型生体反応、接近。急速に距離を詰めてきます』
ナビの警告音で、夢見心地な空気は一変した。
直後、ドスン! と車体に何かがぶつかる衝撃が走る。
「なんだい!?」
「ユ、ユウ様! 窓の外!」
セリスの悲鳴。
見ると、巨大な吸盤のついた触手が、窓ガラスにベタリと張り付いていた。
『解析結果。モンスター名『クラーケン・ジュニア』。全長15メートルの巨大イカです』
「うわぁ、気持ち悪いねぇ……」
ルナが顔をしかめる。
巨大イカはキャンピングカーを獲物だと思ったのか、長い触手で車体を締め上げにかかってきた。
ギリギリと嫌な音がするが、ガーネットさんの補強した装甲はビクともしない。
『マスター。排除しますか?』
「そうだね。せっかくの鑑賞タイムが台無しだ」
『了解。対生物防御システム『エレキ・ショック(弱)』起動』
ナビが操作すると、車体表面に青白い電撃が走った。
バチチチッ!
海中に電流が流れ、クラーケン・ジュニアが痙攣する。
触手の力が抜け、イカは墨を吐きながら一目散に逃げていった。
「……あーあ、逃げちゃった」
ララが残念そうに言う。
「食べたかったの?」
「うん! イカリング!」
確かにあのサイズなら、何人前のイカリングができるだろうか。
まあ、今回は見逃してやろう。
僕たちは再び、平和を取り戻した海中散歩を続けた。
次なる目的地は、太陽の光も届かない「深海」だ。




