第061話: 潜航開始
東の海域に進んでから数日。
僕たちは、伝説にある「人魚の海域」付近に到達していた。
「この辺りだね。ナビ、周辺の警戒はどう?」
『ソナー反応、良好。半径5キロ圏内に大型モンスターの反応はありません』
僕は頷き、大きく深呼吸をした。
いよいよだ。
ガーネットさんとソフィアの協力で完成した、この新機能を使う時が来た。
「みんな、準備はいい?」
「いつでもオッケーだよ!」
「はい、ワクワクします!」
「お魚さんに会いに行くのー!」
三人の返事を確認し、僕はコンソールにある青いスイッチに手をかけた。
「よし……『潜水モード』起動!」
僕の操作に合わせて、キャンピングカーのシステムが切り替わる。
ウィーン、という低い駆動音と共に、車内の気圧が調整されていく。
『防水シールド、最大展開。タイヤ格納、完了。バラストタンク、注水開始』
ナビのアナウンスが響く。
「うわっ、沈んでいくよ!」
ルナが窓に張り付く。
窓の外、青い空と海面の境界線がゆっくりと上がり――やがて、完全に水面が頭上へと消えた。
ゴボゴボという泡の音と共に、視界は一面のエメラルドグリーンに染まる。
「す……すごい……」
僕たちは息を呑んだ。
太陽の光がカーテンのように揺らめき、海中を照らしている。
陸上のどんな景色とも違う、神秘的な青の世界。
『深度10メートル。水密隔壁、正常。浸水なし。……マスター、快適な深海ドライブをお楽しみください』
ナビの声も、どこか誇らしげだ。
成功だ。僕たちの【マイホーム】は、ついに海の中を手に入れたのだ。
「見てくださいユウ様! 窓の外も変わりました!」
セリスが指差す。
窓ガラスには魔法陣が浮かび上がり、外の景色をクリアに見せてくれていた。
水による屈折や濁りを自動補正しているらしい。さすがはソフィアの技術だ。
「よし、もう少し潜ってみようか」
僕は操縦桿(水中モードではハンドルの形状が変わる)を押し込んだ。
鉄のクジラとなったキャンピングカーは、静かに、そして滑らかに深みへと降りていった。
未知なる冒険への期待を乗せて。




