第060話: 夕陽の別れ
海賊たちを衛兵に引き渡した後(彼らは泣いて感謝していた)、僕たちは再びポルトの港に戻ってきた。
ガーネットさんを送り届けるためだ。
夕暮れの港は、オレンジ色の光に包まれて幻想的だった。
カモメの鳴き声と、波の音が静かに響く。
「……世話になったね」
キャンピングカーから降りたガーネットさんが、ぶっきらぼうに言った。
その手には、お別れの品として渡した『特製エール(冷え冷え)』の樽が抱えられている。
「こちらこそ、ありがとうございました。ガーネットさんのおかげで、最高の船になりました」
「ふん、当たり前さ。私の最高傑作なんだからね」
彼女は照れ隠しのように鼻を鳴らすと、視線をキャンピングカーの屋根――そこにあるカメラアイに向けた。
「おい、ポンコツAI。……あんたも、達者でやりなよ」
『……ポンコツではありません。スーパーAIです。……ですが、貴女の技術力は推奨に値します。メンテナンスの際は、優先的に利用させていただきます』
ナビの言葉に、ガーネットさんはニカっと笑った。
「おうよ! また何処か壊して持ってきな! 今度はもっと凄くしてやるからよ!」
「ふふ、お手柔らかにお願いします」
セリスとルナ、ララも手を振る。
「お姉ちゃん、バイバーイ!」
「また美味い酒、飲もうな!」
「お元気で、ガーネットさん!」
「ああ、あんたたちもね! ……いい旅をしな!」
ガーネットさんは大きく手を振り返し、工房の方へと歩いていった。
その背中は、どこか満足げで、そして少しだけ寂しそうだった。
再び海へ出た僕たちは、水平線の彼方を目指して進んでいた。
夕陽が海に沈みかけ、空と海がグラデーションを描いている。
「さて、次はどこへ行こうか」
「東! もっと東!」
ララが元気よく指差す。
「そうですね。……伝説にある『人魚の歌声』が聞こえる海域が、この先にあるそうです」
「人魚かぁ! 会ってみたいねぇ」
「綺麗なのかな? お歌上手なのかな?」
僕たちはまだ見ぬ冒険に思いを馳せる。
陸から海へ。
舞台は変わったけれど、僕たちの旅は変わらない。
美味いものを食べ、寝心地の良いベッドで眠り、そして笑い合う。
それが快適スローライフだ。
『マスター。東方100キロ地点に、微弱な魔力反応を探知。……人魚の歌声、かもしれません』
「おっ、さすがナビ。耳が良いね」
『感謝します。……さあ、行きましょう。新しい世界へ』
ナビの声に導かれ、スーパー・キャンピングカー・マリンは速度を上げる。
白い航跡を引いて、僕たちは夕陽の中へと突き進んでいった。




