第007話: 女盗賊ルナ
その日の夜。
僕たちは街道から少し外れた森の中で車中泊をしていた。
セリスはゲストルームですやすやと眠っている。
僕はリビングで、明日のルートを確認していた。
『警告。車外に生体反応接近。敵意あり』
ナビの警告音が静かに響く。
僕は眉をひそめてモニターを切り替えた。
暗視カメラの映像に、黒装束の人物が映し出される。
体格からして女性だろうか。彼女は車のドアに張り付き、何かをガチャガチャとやっている。
「……泥棒か?」
『ピッキングツールによる解錠を試行中。……失敗。現在は魔法による強制解錠を試みています』
モニターの中の盗賊は、苛立ったように扉を蹴飛ばしていた。
「くそっ、なんだこの扉! 愛用の鍵開け道具も、こじ開け用の道具も効かないなんて!」
音声マイクが彼女の悪態を拾う。
「元気な泥棒さんだね。……ナビ、防犯モード起動。レベル1、電気ショック」
『了解。通電します』
バチチッ!!
「ぎゃあああああっ!?」
凄まじい悲鳴と共に、盗賊が弾き飛ばされた。
彼女は痙攣しながら地面に倒れ込み、ピクピクと動かなくなる。
「……やりすぎたかな?」
『気絶しているだけです。拘束しますか?』
「そうだね。放置して凍死されても寝覚めが悪いし」
僕はハッチを開け、気絶した盗賊を引きずり込んだ。
数十分後。
リビングの床で、盗賊が目を覚ました。
彼女は後ろ手に縛られていることに気づき、即座に僕を睨みつけた。
「っ! 貴様、何をした! 私をどうするつもりだ!」
「どうするも何も、勝手に人の家に侵入しようとしたのはそっちだろ」
「くっ……! 殺せ! 辱めるくらいなら殺せ!」
テンプレ通りの台詞を吐く盗賊さん。
覆面が取れた素顔は、意外にも幼い顔立ちの美少女だった。猫のような吊り目が特徴的だ。
「殺さないし、辱めもしないよ。ただ、警察……じゃなくて衛兵に突き出すまでは大人しくしててもらう」
「衛兵だと!? ふざけるな! そんなことされたら……」
グゥゥゥゥ〜〜〜……。
彼女の言葉を遮るように、盛大な腹の虫が鳴った。
盗賊の顔が真っ赤に染まる。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
僕はため息をついて、立ち上がった。
「……腹、減ってるのか?」
「う、うるさい! 盗賊にとって空腹はスパイスだ!」
「意味わかんないよ。……まあいいや、夜食ついでだ」
僕はキッチンに行き、壁に設置されたタッチパネルを操作した。
『購入完了。魔力ポイントを消費しました』
電子音と共に、デリバリーボックスの中にカップ麺(シーフード味)が出現する。
僕はそれにお湯を注いだ。
3分後。
蓋を開けると、湯気と共に強烈な匂いが広がる。
「な、なんだその匂いは……!?」
「カップ麺だ。毒は入ってないよ」
僕は彼女の拘束を解き、割り箸と一緒に渡した。
彼女は警戒しながらも、匂いの誘惑には勝てず、恐る恐る麺を啜った。
「……っ!!」
カッと目が見開かれる。
「う、うまい……! なんだこれは!? このスープのコク、麺の食感……! 王都の高級店でもこんな味は……!」
「インスタントだよ。……おかわりもあるから、ゆっくり食え」
彼女は夢中で麺を啜り、スープまで飲み干した。
そして、満足げに息を吐いた後、ハッとして僕を見た。
「……勘違いするなよ! 飯をもらったくらいで、情報を吐くと思ったら大間違いだ!」
「はいはい」
どうやら、面倒なのが一人増えてしまったようだ。
僕はやれやれと肩をすくめ、自分の分のカップ麺を啜った。




