第052話: 港町ポルト
潮の香りが強くなってきた。
坂道を下りきった先に現れたのは、白壁の家々と青い海とのコントラストが美しい、活気あふれる巨大な港町だった。
「おおー! すごい人混みだね!」
「市場が賑わっていますね。見たことのないお魚ばかりです」
「うまそう……じゅるり」
キャンピングカーで街の大通りをゆっくりと進む。
周囲の人々は、巨大なキャンピングカーを見て目を丸くしているが、王都ナンバーのプレートを見つけて道を譲ってくれた。
どうやら『貴族様の変な乗り物』と認識されたらしい。
『マスター。街の地図データを更新。目的地付近、大型船も停泊可能な港湾エリアへ誘導します』
「頼むよ、ナビ」
僕たちは港の近くにある広場に車を停めた。
まずは情報の収集と、市場の散策だ。
「うわっ、本当に何でも売ってるな」
市場には活きの良い魚介類はもちろん、南国のフルーツや、珍しい珊瑚のアクセサリーなどが所狭しと並べられていた。
磯の香りと、炭火で魚を焼く香ばしい匂いが混ざり合い、食欲を刺激する。
「お兄ちゃん! あれ食べたい! イカ焼き!」
「はいはい。おばちゃん、それ三つください」
「あいよ! おまけしとくよ!」
焼きたてのイカ焼きを頬張りながら、僕たちは岸壁へと向かった。
そこには、大小様々な船が停泊していた。
小さな漁船から、巨大な帆船まで。
どれもが海へのロマンを感じさせる。
「いいなぁ、船。僕らもあれに乗って海に出たいね」
「でもユウ、この車じゃ海は走れないだろ? 船を買うのかい?」
ルナがもっともな疑問を口にする。
確かにキャンピングカーは陸上と空はいけるが、水の中は専門外だ。
「うーん……船を買うのもいいけど、やっぱりこの【マイホーム】で旅がしたいんだよね。内装も快適だし」
「それはそうだね。狭い船室で雑魚寝なんて、もうアタシには無理だし」
「私もです。お風呂とキッチンは譲れません」
贅沢を覚えてしまった僕たちは、もう普通の旅には戻れない体になっていた。
となると、選択肢は一つしかない。
「改造しよう」
「改造?」
「そう。このキャンピングカーを、海も走れるように改造するんだ」
僕の提案に、三人がポカンとする。
「そんなことできるんですか?」
「理論上はね。タイヤを収納してスクリューを出せばいいし、防水加工も強固にすれば……ただ、僕一人の知識じゃ限界がある」
現代の知識はあるが、それをファンタジー世界で実現するための具体的な技術が足りない。魔法で無理やり動かすことはできても、長時間の航海に耐えうる耐久性を確保するには、専門家の協力が必要だ。
「ナビ、この街で一番腕のいい整備士、あるいは造船技師は?」
『検索中……。該当者一名。港の西区画にある工房『鉄の鎚』の主、ドワーフ族のガーネット氏。技術は超一流ですが、性格に難ありとの口コミ多数』
「性格に難あり、か。職人らしいね」
僕は苦笑する。
だが、超一流なら文句はない。
「よし、行ってみよう。そのガーネットさんに、僕たちの夢を託すんだ」
「へへっ、面白くなってきたね!」
「ララも行くー!」
僕たちは残りのイカ焼きを平らげると、再びキャンピングカーに乗り込んだ。
目指すは西区画。
偏屈な天才整備士が待つ工房へ。
海への大冒険、その第一歩は、やはりこの車の進化から始まるのだ。




