SS: 王女の誓い
王城のバルコニーから、一台の奇妙な鉄の馬車が走り去っていくのが見えた。
黒い煙も吐かず、滑るように石畳を進むその姿は、まるで異界の乗り物のようだ。
「……行ってしまわれたのですね」
第一王女エリスは、手すりを強く握りしめながら呟いた。
隣には、まだ包帯が痛々しい近衛騎士団長が控えている。
「よろしかったのですか、殿下。彼らは国の恩人です。もっと盛大に見送ることも、褒美を取らせることもできたはずですが」
「いいえ。あの人たちは、それを望まないわ」
エリスは静かに首を振った。
昨夜の祝賀パーティーでの彼らの様子を思い出す。
貴族たちの世辞には適当に相槌を打ち、美味しい料理と仲間との会話を楽しんでいた。
彼らにとって、王家の権威や地位など、道端の石ころほどの価値もないのだろう。
「『快適スローライフ』……でしたっけ」
「は?」
「あの殿方……ユウ様が仰っていたの。彼らの旅の目的よ」
エリスはクスリと笑った。
国を救い、邪神を倒した英雄の目的が、ただ「快適に旅をする」ことだなんて。
誰も信じないだろう。けれど、エリスにはそれが真実だと分かった。
「セリス様も、本当に幸せそうだった……」
かつて「穢れた聖女」として追放された少女。
再会した彼女は、以前よりもずっと強く、美しくなっていた。
それはきっと、彼女を認め、支えてくれる仲間がいるからだ。
「私も、負けてはいられませんね」
エリスは背筋を伸ばし、振り返った。
そこには、バルガスの支配によって傷つき、荒廃した王都が広がっている。
復興には長い時間がかかるだろう。
だが、絶望はない。
「騎士団長。直ちに復興支援の指揮を執ります。民に食料と毛布を。それと、教会への監査も急ぎなさい」
「はっ! 直ちに!」
騎士団長が敬礼し、駆け出していく。
エリスはもう一度だけ、キャンピングカーが消えた地平線を見つめた。
「ありがとう、セリス様、ユウ様。……いつかまた会う日まで、どうかお元気で」
王女の瞳には、新たな時代を築く決意の光が宿っていた。
風が吹き抜け、彼女の亜麻色の髪を優しく揺らした。




