第006話: 初めての朝食
チュンチュン、という小鳥のさえずりで目が覚めた。
……いや、違う。これはナビが流している環境音だ。
「ん……」
僕はベッドから体を起こし、大きく伸びをする。
昨日は色々とあった。聖女を拾い、騎士団を撒き、パーティが増えた。
今日からは二人旅だ。
「おはよう、ナビ。今の時間は?」
『おはようございます、マスター。現在は午前七時。外気温マイナス十八度。快晴です』
「そっか。……ん? なんかいい匂いがしないか?」
リビングの方から、香ばしい匂いが漂ってくる。
僕はガウンを羽織り、寝室を出た。
「あ、あわわ……! こ、焦げてしまいます……!」
「セリス様、火力調整はそこのパネルです。右に回すと弱まります」
「こ、こうですか!? ……ああっ! 消えてしまいました!」
キッチンでは、エプロン(僕の予備だ)をつけたセリスが、フライパンと格闘していた。
銀髪を後ろで一つに束ね、必死な形相でIHコンロに向かっている。
「おはよう、セリス。早いね」
「ひゃっ!? ゆ、ユウ様!?」
僕の声に驚いたセリスが、フライパンを持ったまま振り返る。
その中には、黒焦げになった何かが入っていた。
「お、おはようございます……! その、朝食を作ろうと思いまして……でも、この『魔導コンロ』が難しくて……」
彼女は涙目で黒焦げの物体(たぶん目玉焼きだったもの)を見せる。
「ごめんなさい……。お役に立とうと思ったのに、食材を無駄にしてしまいました……」
「いいよ、気にしないで。このキッチンの使い方は特殊だからね」
僕は彼女の隣に立ち、フライパンを受け取る。
そして、手早く焦げを処理し、新しい卵を割り入れた。
「見てて。ここを押すと電源が入る。で、この数字が火の強さだ」
「す、数字で火加減を……? 呪文詠唱はいらないのですか?」
「いらないよ。……ほら、焼けてきた」
ジュウジュウといい音がして、綺麗な半熟目玉焼きが出来上がる。
セリスは「おおぉ……」と感嘆の声を漏らした。
「すごい……魔法も使わずに、こんなに均一に火が通るなんて……」
「便利だろ? ついでにトーストも焼こうか」
僕はトースターに食パンをセットし、タイマーを回す。
チン、という軽快な音と共に、こんがり焼けたパンが飛び出した。
「飛び出しました!? パンが自ら飛び出しましたわ!?」
「元気なパンだね。……さ、食べようか」
数分後。
テーブルには、目玉焼きとトースト、サラダ、そしてコーヒーが並んだ。
僕たちは向かい合って座り、手を合わせる。
「いただきます」
「い、いただきます……」
セリスは恐縮しながらも、トーストを一口齧る。
サクッ、という音が響く。
「……美味しい。外はカリカリで、中はふわふわです……」
「だろ? セリスが焼こうとしてくれた気持ちも入ってるから、余計に美味いよ」
「ユウ様……」
僕の言葉に、彼女は頬を染めて俯いた。
「……明日は、もっと上手に作ります。私、覚えるのは得意なんです」
「期待してるよ。でも、無理はしないでね」
窓の外は相変わらずの雪景色だが、車内には温かい空気が流れている。
一人で食べる朝食も悪くなかったが、二人で食べる朝食は、もっと悪くない。
僕はコーヒーを飲みながら、そんなことを思った。




