第044話: 囚われの王女
王城の西に位置する孤塔。
その最上階にある牢獄に、一人の少女が幽閉されていた。
この国の第一王女、エリスである。
「……お父様」
鉄格子の隙間から見える月を見上げ、彼女は力なく呟いた。
国王である父は、原因不明の病に倒れ、今は意識がないという。
そして、その隙をついて国政を掌握したのが、大神官バルガスだった。
「エリス様。お食事の時間です」
重い扉が開き、無表情な神官が入ってくる。
手には粗末なパンと水だけが載った盆を持っていた。
「……結構です。どうせ、毒が入っているのでしょう?」
「滅相もございません。明日の儀式のため、身を清めていただかねばなりませんから」
神官は不気味な笑みを浮かべ、盆を床に置いた。
儀式。
バルガスが執り行うという、邪神召喚の儀式。
その生贄として、王家の血を引く自分が選ばれたのだ。
「なぜ……こんなことを。神に仕える身でありながら、邪神を崇めるなど……!」
「神? ククク……。あのような無力な存在に、何の価値がありましょう」
背後から、低い声が響いた。
神官たちが道を空け、豪奢な法衣を纏った男が現れる。
大神官バルガスだ。
「バルガス……!」
「ご機嫌麗しゅう、王女殿下。明日の準備は整いましたかな?」
バルガスはエリスの顎を掴み、品定めするように見下ろした。
その目は、信仰心など欠片もない、欲望に塗れた濁った色をしていた。
「貴様……! 国を、民をどうするつもりだ!」
「民? ああ、あの愚かな家畜どものことですか。彼らは私の新しい神への糧となるのです。光栄なことではありませんか」
狂っている。
この男は、完全に正気を失っている。
「安心なさい。貴女の命と引き換えに、この国は生まれ変わる。……私の理想郷としてな」
バルガスは高笑いを残し、部屋を出て行った。
再び閉ざされる鉄の扉。
絶望が、冷たい空気と共に部屋を満たす。
「誰か……助けて……」
エリスは膝を抱え、震える声で祈った。
だが、神は答えない。
この国はもう、終わってしまうのか。
その時だった。
遠くから、奇妙な音が聞こえた気がした。
ドォォォォン……!
雷鳴? いや、違う。もっと重く、腹に響くような音。
「……何?」
エリスは顔を上げた。
彼女はまだ知らない。
その音が、絶望を打ち砕く「最強の家」のエンジン音であることを。




