第042話: 裏通りの情報屋
「ここだよ。足元に気をつけて」
ルナの案内で、僕たちは王都の下町、さらにその奥にある入り組んだ路地裏へと足を踏み入れていた。
表通りの静けさとは対照的に、ここは薄暗く、淀んだ空気が漂っている。
「こんな所に情報屋がいるのか?」
「ああ。表じゃ言えないようなネタを扱ってる古株さ。……昔、私が世話になった爺さんだよ」
ルナは懐かしそうに目を細め、一軒のボロ屋の扉を叩いた。
コン、コンコン、コン。
独特のリズムだ。合言葉代わりなのだろう。
「……誰だ」
「私だよ、ジジイ。ルナだ」
しばらくの沈黙の後、ギィィと軋んだ音を立てて扉が開いた。
中から現れたのは、片目に眼帯をした小柄な老人だった。
「ルナか……。生きてたか、クソガキ」
「へっ、相変わらず口が悪いね。……客を連れてきた。話を聞かせてくれよ」
老人は僕たちを一瞥すると、無言で中へ招き入れた。
部屋の中は雑然としており、古本や羊皮紙が山積みになっている。
「で、何が知りたい? ……この時期に戻ってきたんだ。ただの里帰りってわけじゃねぇだろう」
老人は椅子に座り、パイプに火をつけながら言った。
単刀直入な物言いに、僕は頷く。
「王都の現状と、神官バルガスの動向だ。特に、近日行われるという『儀式』について知りたい」
「……ふん。やはりそこか」
老人は紫煙を吐き出し、重い口を開いた。
「バルガスの野郎、完全に狂ってやがる。王家を傀儡にし、国教を『蛇神教』とかいう怪しげな宗教に塗り替えようとしてるんだ」
「蛇神教……」
セリスが息を飲む。
あの蛇の紋章と繋がる。
「儀式ってのは、その蛇神を降臨させるためのものらしい。場所は王城の地下祭壇。日時は……明日の夜だ」
「明日!?」
「ああ。しかも、その儀式には『生贄』が必要らしい。……王家の血を引く、純潔な乙女がな」
王家の血を引く乙女。
つまり、王女だ。
「まさか、王女殿下を……!」
「王女は今、城の塔に幽閉されてる。国王陛下も病と称して軟禁状態だ。実質、この国はもうバルガスのものさ」
最悪の状況だ。
バルガスは国を乗っ取るだけでなく、邪神を呼び出して何をしようとしているのか。
「……分かった。ありがとう、爺さん」
ルナが金貨を数枚、テーブルに置く。
老人はそれを受け取らず、鼻で笑った。
「金なんぞいらん。……その代わり、頼みがある」
「頼み?」
「あのクソ神官をぶっ飛ばしてくれ。この街を、元の活気ある場所に戻してくれ。……それが俺からの依頼だ」
老人の目には、静かな怒りと、微かな希望が宿っていた。
ルナはニカッと笑い、親指を立てた。
「任せな。……倍にして返してやるよ」
店を出ると、日はすでに傾きかけていた。
明日の夜、決戦の時が来る。
猶予はない。
「ユウ様。……王女殿下を、助けましょう」
「ああ、もちろんだ。バルガスの野望ごと、全部ぶっ壊してやる」
僕たちはキャンピングカーに戻り、作戦会議を開くことにした。
最強の「家」で、王城へ殴り込みをかけるために。




