第039話: 呪いの化身
「グオオオオオオッ!!」
漆黒の巨人が咆哮する。
その声は空気そのものを震わせ、賢者の塔の窓ガラスにヒビを入れた。
「あれが……私の呪い……」
セリスは力を使い果たし、ソフィアに支えられながら呆然と見上げている。
巨人の胸には、あの忌まわしい『蛇の紋章』が赤く輝いていた。
「ユウ! 気をつけろ! 奴は魔力の塊じゃ! 普通の攻撃は効かぬぞ!」
ソフィアの警告と同時に、巨人が腕を振り下ろす。
黒い衝撃波が放たれ、キャンピングカーの障壁を激しく揺さぶった。
「ぐっ……! ナビ、損傷率は!?」
『障壁強度、残り 40%。直撃は危険です』
まずいな。さっきの主砲でエネルギーの大半を使ってしまった。
ガトリング砲も弾切れ寸前だ。
「どうするよ、ユウ! このままじゃジリ貧だ!」
「分かってる! ……ソフィ、あの紋章が弱点か?」
「おそらくそうじゃ! だが、奴の周囲は高密度の瘴気で守られておる。生半可な攻撃では届かぬ!」
瘴気を貫き、核を撃ち抜く一撃が必要だ。
僕の手札に残っているのは……。
「……あるぞ。とっておきが」
僕はコンソールの奥にある、赤いカバーで覆われたスイッチを見た。
『緊急時用・全魔力放出システム』。
キャンピングカーの全機能を停止させる代わりに、残存魔力を全て攻撃に転用する捨て身の技だ。
「みんな、聞いてくれ。これから最後の一撃を放つ。……失敗したら、車ごと墜落だ」
「上等じゃねぇか。やってやんな!」
「信じてるよ、ユウお兄ちゃん!」
「わふっ!」
仲間たちの声に、迷いが消える。
僕はスイッチのカバーを跳ね上げた。
「ナビ、全システム凍結。生命維持以外の全魔力を、主砲へバイパス!」
『了解。……マスター、ご武運を』
車内の照明が落ち、非常灯の赤い光だけになる。
エンジン音が止まり、静寂が訪れる。
その代わり、主砲の砲身だけが眩い光を放ち始めた。
「グガァァァッ!!」
巨人が危険を察知し、両手から巨大な闇の球体を生成する。
どちらが速いか。勝負だ。
「セリス! 君の未来は、君自身の手で掴み取るんだ!」
「……はいっ!!」
セリスが最後の力を振り絞り、祈りを捧げる。
彼女の身体から溢れ出した聖なる光が、主砲の輝きと融合した。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!」
僕はトリガーを押し込んだ。
ズドォォォォォォォォォン!!
聖なる光を纏った極太のレーザーが、闇を切り裂いて一直線に伸びる。
巨人の放った闇の球体を消滅させ、その胸にある蛇の紋章へと突き刺さった。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
断末魔の叫びと共に、巨人の身体に亀裂が走る。
そして、眩い閃光と共に、呪いの化身は跡形もなく消滅した。
空が晴れていく。
黒い雲が散り、美しい夕焼けが広がっていた。
「……やった、か」
僕は安堵のため息をつき、背もたれに深く沈み込んだ。
モニターには『魔力残量:0%』の表示。
キャンピングカーはゆっくりと機能を停止し、ただの鉄の箱へと戻っていった。
だが、僕たちの心は満たされていた。
長い戦いが、ようやく終わったのだ。




