第031話: 魔法都市への道
「うわぁ……! すごい、空を飛んでる!」
ララが窓に張り付き、キラキラと目を輝かせている。
彼女の視線の先には、上空を優雅に行き交う『空飛ぶ絨毯』や、箒に跨った魔法使いたちの姿があった。
「あれが、魔法都市……」
セリスもまた、感嘆の声を漏らす。
僕たちの目の前には、巨大な城壁に囲まれた都市が広がっていた。
だが、何より目を引くのは、その中心にそびえ立つ白亜の塔だ。
雲を突き抜けるほどの高さを誇るそれは、太陽の光を反射して神々しく輝いている。
『賢者の塔』。
世界最高峰の魔法技術が集まる場所であり、この都市のシンボルでもある。
「へぇ、こりゃすげぇな。ベルンとは桁違いだ」
ルナも珍しく素直に驚いているようだ。
僕たちは砂漠の交易都市ササンドラを出発し、数日かけてこの魔法都市『アルカディア』へとやってきた。
目的はもちろん、セリスの呪いを解く手がかりを探すためだ。
「ナビ、周辺の魔力濃度はどうだ?」
『はい、マスター。このエリアの魔力濃度は、通常の約 10 倍を計測しています。車両の防魔結界を強化することを推奨します』
「了解。ポチ、ホタル、警戒レベルを上げてくれ」
「わふっ!」
僕はキャンピングカーのハンドルを握り直し、都市への入り口となる巨大な門へと向かった。
門の前には長蛇の列ができているが、空を飛んでいる連中はそのまま素通りしていくようだ。
「いいなぁ、空飛ぶ絨毯。あれがあれば、もっと楽に移動できるのに」
「ララちゃん、身を乗り出しすぎると危ないですよ」
「だってぇ、セリス姉ちゃんも見てよ! あの箒、火を吹いてる!」
車内は修学旅行のような賑やかさだ。
過酷な砂漠の旅を終え、久しぶりの都会にみんな浮かれているのかもしれない。
「さて、問題はここからだ」
僕は列の最後尾にキャンピングカーを停めた。
周囲の馬車や徒歩の旅人たちが、物珍しそうにこちらの車を見ている。
無理もない。この世界に、こんな銀色の鉄の塊は存在しないのだから。
「止まれ! その奇妙な乗り物はなんだ?」
案の定、門番の兵士が槍を構えて近づいてきた。
彼の鎧には、微かに光る魔法陣が刻まれている。魔法剣士といったところか。
「怪しい者ではありません。これは私の……ええと、『移動式住居』です」
「移動式住居だと? 馬もいないのにどうやって動いている?」
「それは……魔法です。風の魔法を動力にしています」
僕は適当な嘘をついた。
いちいちエンジンの仕組みを説明するのは面倒だし、魔法都市なら「魔法」と言っておけば通じるだろうという安易な考えだ。
「魔法だと? ……ふむ」
兵士は疑わしげな目で車体を撫で回す。
そして、懐から水晶玉のようなものを取り出し、車にかざした。
「……魔力反応なし。おい、これはどういうことだ?」
「えっ?」
「魔法で動いているなら、魔力反応があるはずだ。だが、この鉄の塊からは魔力を一切感じないぞ」
しまった。
ナビのステルス機能や防魔結界が優秀すぎて、魔力漏れを完全に遮断してしまっているのだ。
これでは「魔法で動いている」という説明と矛盾してしまう。
「あー、それはですね……最新の隠蔽魔法を使っていまして」
「隠蔽魔法? 貴様、もしや密入国者か? それとも禁制品を運んでいるのか?」
兵士の目が険しくなる。
周囲の兵士たちも集まってきて、完全に包囲されてしまった。
「おいおい、ユウ。いきなりピンチじゃねぇか」
「……どうしましょう、ユウ様」
ルナとセリスが心配そうに僕を見る。
まずいな。ここで騒ぎを起こせば、入国どころかお尋ね者になってしまう。
かといって、キャンピングカーの性能を正直に話せば、それはそれで面倒なことになりそうだ。
その時だった。
「待つのじゃ」
頭上から、鈴を転がしたような可愛らしい声が降ってきた。
見上げると、そこには一本の杖に跨り、ふわりと浮遊する小さな影があった。
「その者たちは、わらわの客じゃ。通してやるがよい」
銀色の髪を風になびかせ、幼い少女が僕たちを見下ろしていた。
その瞳は、黄金色に輝いている。
「そ、そのお姿は……大賢者様!?」
兵士たちが一斉にその場に跪く。
え? 大賢者?
この小さな女の子が?
少女は杖を操り、音もなく僕の車の前に着地した。
そして、興味深そうにボンネットをペタペタと触り始める。
「ほう……。近くで見ると、ますます奇妙な構造じゃな。継ぎ目が見当たらぬ」
彼女は顔を上げ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「主よ。この鉄の箱、中はどうなっておるのじゃ? わらわに見せてはくれぬか?」
これが、僕と大賢者ソフィアとの出会いだった。




