第004話: 呪いと契約
食後のコーヒーを飲みながら、僕はソファの向かいに座るセリスに向き合った。
お腹が満たされ、体も温まったはずだが、彼女の表情はどこか暗い。
「さて、落ち着いたところで話を聞かせてもらってもいいかな? 君がなぜ、あんな場所に倒れていたのか」
僕が切り出すと、セリスはビクリと肩を震わせた。
彼女は膝の上でギュッと拳を握りしめ、しばらく沈黙した後、意を決したように顔を上げた。
「……私は、国を追放されたのです」
「追放?」
「はい。私には……『呪い』があるのです」
彼女は悲痛な面持ちで、自分の胸元を押さえた。
「魔物を引き寄せる呪いです。私がいるだけで、周囲の魔物が活性化し、狂ったように襲ってくる……。浄化の力でも消すことができず、私は『国を滅ぼす穢れた聖女』として、荒野に捨てられました」
それが、彼女が一人で死にかけていた理由か。
魔物を呼ぶ聖女。皮肉な話だ。
「だから……ユウ様。私を助けてくださったことは感謝してもしきれませんが、これ以上ご迷惑はおかけできません。私はすぐに出て行きます」
セリスは立ち上がろうとする。
その瞳は、何かを恐れているようだった。
「座りなよ」
「で、でも!」
「いいから」
僕に促され、彼女は渋々といった様子で座り直す。
僕はコーヒーを一口啜って、淡々と言った。
「……なるほど。事情は分かったよ」
僕はコーヒーカップを置いて、静かに言った。
「でも、それがどうしたの?」
「えっ……?」
セリスが呆気にとられたような声を出す。
「魔物が来るんですよ!? ユウ様にも危険が及びます!」
「危険なら、もうとっくにあってるよ。ここに来るまでも魔物の群れを轢いてきたし」
「ひ、轢いた……!?」
「それに、奇遇だね。僕も似たようなもんだ」
僕は苦笑しながら、窓の外、吹雪く荒野を見やった。
「ユウ様が……?」
「ああ。僕のこのスキル……【マイホーム】は、戦闘の役には立たない『ハズレスキル』だって馬鹿にされてね。『家を作るだけの生産職なんて、冒険者の足手まといだ』って、パーティを追い出されたんだ」
これは前世の記憶を持つ転生者としての知識だが、この世界では戦闘に直結しないスキルは軽視される傾向がある。
僕のスキルは、ただ「家を建てる」だけだと思われていた。
「だから国を出たんだ。誰にも文句を言われない、自分だけの最強の城を作ってやろうと思ってね。……結果がこれさ」
僕は広々としたリビングを見渡す。
セリスは驚いたように僕を見つめていた。
「私たち……似た者同士、なのでしょうか」
「まあね。はぐれ者同士だ。だから、君がここにいることに何の問題もない」
「でも! 呪いは消えません! ここにいたら、いつかこの素晴らしいお車も魔物に壊されて……」
彼女の懸念はもっともだ。だが。
「ナビ、周囲の状況は?」
天井から、ナビの冷静な声が響く。
『半径一キロ圏内、魔物の反応なし。本車両の隠蔽結界により、セリス様の呪いの波動は完全に遮断されています』
「……え?」
セリスがきょとんとする。
「聞こえたろ? この車の中は『安全圏』だ。君の呪いは外には漏れないし、外の魔物も入ってこられない」
僕はニッと笑って見せた。
「だから、君は出ていく必要なんてない。……それに、一人旅も少し寂しくなってきたところなんだ」
僕は彼女に手を差し伸べた。
「良ければ、僕の旅に付き合ってくれないかな? 美味しいご飯と、温かいベッドは保証するよ」
僕の言葉に、セリスの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
それは悲しみの涙ではなく、安堵の涙だった。
「……はいっ……! 喜んで……ご一緒させていただきます……!」
彼女は深く頭を下げた。
こうして、僕の気ままな一人旅は終わりを告げ、訳あり聖女との賑やかな逃避行が幕を開けたのだった。




