SS: 黒猫の決意(ルナ視点)
「……じゃあな、ババア。長生きしろよ」
私はキャンピングカーの窓から、小さくなっていく孤児院を見つめていた。
見送りに来てくれたシスターと子供たちの姿が、朝霧の中に消えていく。
「ふん、湿っぽいのは似合わねぇな」
私は鼻をすすり、わざとらしく悪態をついた。
この街には、嫌な思い出もたくさんある。
スラムで泥水をすすり、盗みを働き、必死に生きてきた日々。
でも、それと同じくらい、守りたいものもあった。
「……あいつら、ちゃんと飯食えるかな」
今回置いてきた金があれば、当分は食いっぱぐれることはないはずだ。
それに、あの「聖女様」が浄化してくれたおかげで、スラムの空気も少しはマシになった。
「心配しなくても大丈夫だよ。ルナが頑張ったおかげだ」
運転席から、ユウが能天気な声をかけてくる。
こいつは本当に、どこまでもお人好しだ。
私みたいな薄汚い盗賊を拾って、美味い飯を食わせて、あまつさえ「仲間」だなんて言うんだから。
「……勘違いすんなよ。私はただ、美味い飯が食いたいだけだ」
「はいはい、分かってるよ」
ユウは笑っていた。
隣ではセリスが、ポチとじゃれ合っている。
平和ボケした連中だ。
でも、悪くない。
「次は砂漠か……。どんなお宝が眠ってるか、楽しみにしててやるよ」
私はシートに深く体を預けた。
ベルンの街はもう見えない。
私の新しい居場所は、この奇妙で快適な「動く家」の中にあるのだから。




