第020話: ベルンからの旅立ち
地下水道での決戦から数日後。
ベルンの街は、いつもの活気を取り戻していた。
スラムの子供たちも順調に回復し、今では元気に走り回っているらしい。
しかし、僕たちにはゆっくりしている時間はなかった。
「……そろそろ、潮時だな」
キャンピングカーの中で、僕は地図を広げながら言った。
今回の件で、セリスの正体が敵(大神官の手先)にバレてしまった可能性が高い。
それに、あの派手な浄化の光だ。街の人々の間でも「聖女様が現れた」と噂になっている。
これ以上ここに留まれば、騒ぎに巻き込まれるのは確実だ。
「次の目的地は、南の砂漠地帯にある『交易都市ササンドラ』だ。ここなら国境を越えるし、追っ手も撒けるはずだ」
「砂漠……ですか。暑そうですね」
「大丈夫。この車ならエアコン完備だからね」
セリスが少し不安そうにするが、僕の言葉に安心したように微笑む。
そして、もう一人。
「……で、お前はどうするんだ? ルナ」
僕はソファでくつろいでいるルナに視線を向けた。
彼女はこの街が故郷だ。
今回の件でスラムの英雄になったし、ここに残るという選択肢もあるはずだ。
「あぁん? 何言ってんだよ」
ルナはプリン(ネットスーパー製)をスプーンで掬いながら、当たり前のように言った。
「私はお前らの『ガイド』として雇われてんだろ? 契約期間はまだ終わってねぇよ」
「でも、子供たちは……」
「あいつらはもう大丈夫だ。それに……私がいない方が、シスターも安心して教育できるだろ」
ルナは少し寂しそうに、でも晴れやかな顔で笑った。
彼女なりに、過去に区切りをつけたのだろう。
「それに、こんな美味い飯と快適な寝床、一度知っちまったらもう戻れねぇよ。責任取れよな、ご主人様?」
「ははっ、それは重い責任だね」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
ポチも「わふっ!」と同意するように吠える。
「よし、出発だ!」
僕はエンジンを始動させた。
キャンピングカーが静かに動き出す。
窓の外には、見送りに来てくれたシスターと子供たち、そしてギルドの受付嬢や屋台の常連客たちの姿があった。
「ありがとうー! 聖女様ー!」
「また美味いもん食わせろよー!」
セリスが窓から身を乗り出して、大きく手を振り返す。
その目には涙が光っていたが、表情は笑顔だった。
「さようなら、ベルン! ……行ってきます!」
キャンピングカーは朝日の中を走り抜ける。
目指すは南、灼熱の砂漠。
僕たちの旅は、まだまだ終わらない。




