第018話: 地下水道の決戦
「うっ……臭い」
地下水道に降りた瞬間、鼻をつく腐敗臭と湿気が襲ってきた。
足元には汚水が流れ、壁には苔がびっしりと生えている。
普通の冒険者なら、この環境だけで心が折れるだろう。
だが、僕たちは違う。
「……あれ? 臭くない?」
ルナが不思議そうに鼻を鳴らす。
セリスもキョトンとしている。
「二人とも、指輪を見てごらん」
僕が言うと、二人はそれぞれの『ゲスト・キー』を見た。
指輪が淡く発光し、彼女たちの周囲に見えない膜を作っている。
「これは【マイホーム】の結界機能だ。物理的な防御だけじゃなく、空気の浄化や温度調整もしてくれるんだよ」
「す、すごい……! まるで綺麗な部屋の中にいるみたいです!」
「マジかよ。これならドブ川の中でも昼寝できるじゃねぇか」
ルナの例えは独特だが、その通りだ。
僕たちは汚水の中を歩いているが、靴すら汚れていない。
結界が汚れを弾いているからだ。
まさに「歩く快適空間」。これぞ文明の利器だ。
「よし、進もう。ホタル、先行してくれ」
僕が指示を出すと、偵察ドローンのホタルが暗闇を照らしながら先行する。
スマートウォッチに表示されるマップには、敵の反応を示す赤い点がいくつも映っていた。
「敵が来るぞ。ポチ、頼む」
「わふっ!」
暗闇から飛び出してきたのは、巨大なドブネズミの群れだった。
赤い目を光らせ、鋭い牙で襲いかかってくる。
しかし、ポチは一歩も引かない。
「ガウッ!」
ポチが吠えると同時に、背中のユニットから小型ミサイル(非殺傷ゴム弾)が発射された。
バスッ! バスッ!
正確無比な射撃がネズミたちの眉間を撃ち抜く。
さらに、近づいてきた個体には、尻尾型のスタンロッドで電撃をお見舞いする。
「ギャッ!?」
「チュウゥゥ……」
あっという間にネズミの群れは全滅(気絶)した。
ポチは「どう?」と言わんばかりにドヤ顔で振り返る。
「つ、強すぎる……。私の出番ねぇじゃん」
「ポチちゃん、かっこいいです!」
僕たちはポチとホタルに守られながら、迷宮のような地下水道をサクサクと進んでいく。
敵が仕掛けた鳴子(警報)もホタルのセンサーが見破り、強烈な悪臭も結界が遮断する。
本来なら過酷な地下水道攻略が、まるで観光ツアーのようだ。
「……見えてきた。あそこだ」
最奥の広場にたどり着くと、そこには禍々しい祭壇があった。
紫色の瘴気を放つ水晶と、それを守るように立つ数人のローブ姿の男たち。
そして、彼らが召喚したと思われる、ヘドロのような巨大な魔物が鎮座していた。
「よくここまで来たな、ネズミども」
リーダー格の男が、不敵な笑みを浮かべてこちらを振り返る。
その胸には、確かに『蛇の紋章』が刻まれていた。
「……見つけました。あなたたちが、元凶ですね」
セリスが静かに、しかし激しい怒りを込めて告げる。
決戦の時だ。




