第011話: 冒険者ギルド
「まずは拠点と、路銀の確保だな」
ベルンの街に入った僕たちは、ルナの案内で『冒険者ギルド』を目指していた。
キャンピングカーは、ギルド裏手の有料馬車止めに駐車した。
さすがにこの巨体を路駐するわけにはいかないし、防犯システムがあるとはいえ、目の届かない場所に置くのは不安だからだ。
「ユウ様、あの……私は大丈夫でしょうか?」
フードを目深に被ったセリスが、不安そうに僕の袖を掴む。
彼女は今、認識阻害のローブ(ネットスーパーで購入したパーティグッズ……ではなく、ちゃんとした魔道具だ)を身につけている。
さらに、左手の薬指には銀色の指輪が光っていた。
これは【マイホーム】の拡張機能で作った『ゲスト・キー』だ。
これがある限り、彼女の周囲には僕の家と同じ結界が展開され、あの厄介な「魔物を呼ぶ呪い」も遮断できる。
「大丈夫だよ。その指輪がある限り、君の気配は外に漏れない。それに、何かあったらすぐに僕とルナが守るから」
「はい……! 信じています、ユウ様」
「へっ、熱いねぇ。……ほら、着いたぞ」
ルナが呆れたように指差した先には、剣と盾の看板を掲げた大きな石造りの建物があった。
冒険者ギルド・ベルン支部。
荒くれ者たちの巣窟であり、この街の経済の中心でもある場所だ。
「よし、行こうか」
僕たちは意を決して、重厚な扉を押し開けた。
――ガヤガヤガヤッ……。
中に入った瞬間、熱気と酒の匂い、そして男たちの怒号が押し寄せてくる。
昼間だというのに、併設された酒場ではすでに宴会が始まっていた。
「……うわぁ」
「ひっ……」
僕とセリスが若干引いていると、不意に周囲の視線が集まった。
新入り、それも見るからに弱そうな男と、小柄な少女二人。
彼らにとっては格好の「カモ」に見えるのだろう。
「おいおい、見ねぇ顔だな」
「お嬢ちゃんたち、迷子か? 俺たちが慰めてやろうか?」
案の定、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた男たちが近づいてくる。
典型的な「噛ませ犬」ムーブだ。
セリスが怯えて身を縮める。
僕はため息をつき、一歩前に出ようとしたが――。
「あぁん? 誰に口利いてんだ、テメェら」
ドスの効いた低い声が響いた。
ルナだ。
彼女はフードを少し上げ、鋭い眼光で男たちを睨みつけた。
「ル、ルナ……!?」
「『スラムの黒猫』かよ! チッ、なんだ知り合いか……」
男たちはルナの顔を見た瞬間、バツが悪そうに視線を逸らし、そそくさと席に戻っていった。
どうやら彼女、この街の裏社会ではそこそこ有名人らしい。
「ふん、雑魚が。……行くぞ、ユウ」
「は、はい。頼もしいね、ルナは」
「べ、別に。お前らがナメられると、私の飯が不味くなるだけだ」
ルナはそっぽを向いたが、耳が少し赤い。
僕たちはそのまま受付カウンターへと向かった。
「登録をお願いしたいんですが」
「はい、新規登録ですね。こちらの用紙に記入をお願いします」
受付嬢は慣れた様子で羊皮紙を出してきた。
僕とルナはそれぞれ記入する。
セリスに関しては、身分証代わりになるギルドカードは欲しいが、聖女としての能力(神聖魔法)を書くわけにはいかない。
「セリスは『薬師』として登録しよう。治癒魔法が少し使える、ってことで」
「はい、分かりました」
偽名を使うか迷ったが、この街でセリスの顔を知る者は少ないはずだ。名前くらいなら大丈夫だろう。
手続きはスムーズに進み、僕たちは一番下のランクである『F ランク』のプレートを受け取った。
「F ランクか……。まあ、最初はこんなもんだよね」
「地道にやるしかねぇな。……で、どうする? 早速なんか受けるか?」
「そうだね。手堅く稼げるやつがいいな」
僕たちは掲示板の前に立ち、依頼書を物色し始めた。
『ドブネズミ退治』『迷子猫の捜索』『薬草採取』……。
地味だ。実に地味だ。
だが、今の僕たちにはこれくらいが丁度いいのかもしれない。
「よし、この『薬草採取』にしよう。街の外の森で採れるみたいだし、ピクニック気分で行けそうだ」
「ピクニックって……お前なぁ」
「ふふっ、楽しみですね!」
こうして、僕たちの冒険者ライフは、ゆるく、しかし着実にスタートしたのだった。




