SS: 衝撃のキッチン(ツムギ視点)
「信じられません……。本当に、信じられません……!」
私がユウ師匠のキャンピングカー……もとい、『動くお屋敷の厨房』の中へ足を踏み入れた時の衝撃は、生涯忘れることはないだろう。
サカイで一番腕が良いと自負していた私の自慢の「包丁」が、そこでは完全に宝の持ち腐れだったのだから。
「ええとね、ツムギちゃん。ここは触るだけで火がつくから気をつけて。それと、そこのボタンを押すと、勝手にお湯が出るから」
『当車両の調理モジュールは、マスターの指示により、ツムギ様の生体認証をクリアしています。全機能へのアクセスが可能です』
師匠が指差した黒いツルツルした台(IHクッキングヒーターというらしい)に鍋を置くと、薪も炭も見当たらないのに、あっという間にお湯が沸き始めた。
さらに、壁の蛇口を捻るだけで、氷のように冷たい水や、熱湯が自由自在に出るのだ。
「し、師匠! この水はどこから湧いているのですか!? しかも、こんなに綺麗で……!」
「ああ、キャンピングカーの浄水機能だよ。魔導フィルターを通してるから、川の水でもそのまま飲めるんだ」
魔導……? 浄水……?
私の頭の中にあるヤマトの常識が、けたたましい音を立てて崩れ去っていく。
しかし、料理人としての私の探究心は、それ以上にメラメラと燃え上がっていた。
「そしてこれ。この白い箱が、僕たちの最大の武器『冷蔵庫』だ」
ガチャリ、と師匠が銀色の扉を開ける。
そこからは、真冬の吹雪のような冷気が流れ出してきた。
「ひゃあっ!」
「中を見てごらん。食材が、採れたての新鮮なまま保存されてるだろ?」
「こ、これは……サカイの海でしか獲れない魚! しかも、まだ目が澄んでいます! 氷室もないのに、どうして……!」
凄すぎる。
料理の基本は、食材の鮮度と火加減のコントロールだ。
この『キャンピングカー』という魔法の道具(要塞)は、その両方において、神の領域へと達している。
あの大炊き出しで食べた、完璧な塩むすびと豚汁の味が、幻ではなかったと確信した。
「……師匠。私、一生ついていきます」
「いや、そこまで重く受け止めなくても……」
苦笑いする師匠をよそに、私は愛用の包丁を固く握りしめた。
この厨房があれば、私はヤマトの、いや、世界一の料理人になれる。
ユウ師匠の元で、現代知識(という名の神の技術)を全て吸収してやるのだ。
「まずは、あの『フルーツぎゅうにゅう』とやらを再現してみましょう! 師匠、あの甘いカー(牛?)の乳はいったいどうやって入手したのですか!?」
「あー、あれはネットスーパーでポチッただけだから、再現は難しいかな……」
私の修行は、この圧倒的な未知の世界で、今まさに始まったばかりだ。




