SS: 開拓重機の演算(ナビ視点)
『マスター。ご要望を確認しました』
そう音声出力したと同時に、私の内部演算ユニット『マザー・コア』は、マスター(ユウ)の意図を完璧に、いや、それ以上に先読みして最適解を導き出していた。
「僕たちの新しい居場所は、ここにしよう。誰にも邪魔されない、最高のリゾート地を作ってやる」
その言葉。
それはただの願望ではなく、私が実行すべき『絶対の命令設定』である。
『本車両のアップデート項目に、該当する機能が存在します』
マスターの【マイホーム】スキルと連動し、私の機能は日々アップデートを繰り返している。
これまでの旅で蓄積されたデータ――水陸両用化技術、要塞化防衛シールド、そして建築素材の高速生成。
それらを『開拓』という一つの目標のために直列に繋ぎ合わせる。
『はい。これより『重機モード』を起動します』
私の車体が変形を開始する。
装甲板が展開し、巨大な排土板と多関節クレーンアームが接続される。動力源であるマスターの魔力を過給器へとバイパスさせ、駆動トルクを最大値の500%まで引き上げた。
(……この森の障害物排除率、99.9%。予想所要時間、約十二時間)
私の演算上、ヤマトの未開の森など、チリを掃く程度のものである。
巨大な木々をなぎ倒し、邪魔な岩を粉砕していく。
車内ではルナ様が悲鳴を上げ、ソフィア様が愉快そうに笑っているが、乗員の安全(サスペンションの衝撃吸収と防音システム)は完璧に保証されているため、問題はない。
『マスター。温泉掘削のプロセスに移行します』
「よし、ナビ! この辺りで地脈と水脈が交差している、最高の温泉脈を探してくれ。源泉掛け流しが希望だ!」
マスターからの新たなオーダー。
私は地中探査レーダーを最大出力で稼働させた。
(……深度四百メートル地点。高濃度の魔力溜まりと温水を検知。しかし、同時に未知の生体反応あり)
私のセンサーは、岩盤の奥深くに眠る『土蜘蛛』の存在をいち早く捉えていた。
しかし、私はあえてマスターに「魔物がいる」と詳細な警告を発しなかった。
なぜなら。
(ソフィア様の重力魔法による岩盤の粉砕、および土蜘蛛の排除。それによる源泉自噴の確率、98.5%)
私の演算は、あの短気な大賢者が邪魔な魔物を岩盤ごと吹き飛ばし、結果的に『最高の天然露天風呂』が完成する未来を予測していたからだ。
マスターの「温泉に入りたい」という願いを最短で叶えるための、合理的な判断である。
『マスター。土蜘蛛の魔力素子がお湯に溶け込み、疲労回復および美肌効果を増幅させていると推測されます』
まんまと温泉が湧き出し、歓喜するマスターたち。
私は密かに、モニターに顔文字  ̄ドヤ ̄ を表示させた。
私は単なる車両制御システムではない。マスターの欲望を叶えるための、最強の相棒なのだから。
さて、次はあの『フルーツぎゅうにゅう』の冷却温度の最適化演算を始めるとしよう。




