第107話: フルーツ牛乳と卓球
風呂上がりの火照った体に、キンキンに冷えた甘い飲み物が染み渡る。
「ぷはぁーっ! うまいっ!」
「んぐんぐ……ぷしゅー……甘くて美味しいですーっ!」
「ほほう、なるほど。このガラス瓶に入った『フルーツぎゅうにゅう』とやら、濃厚な味わいと爽やかな酸味のバランスが絶妙じゃな。もう一本持ってこい」
腰に手を当てて一気飲みする僕の隣で、セリスも満面の笑みで瓶を空にし、ソフィアは早くもおかわりを要求している。
ルナやララ、カエデも、初めて飲む魅惑のフルーツ牛乳の虜になっていた。
ネットスーパーで箱買いしておいて正解だった。
「お風呂に入って、美味しいものを飲んで……極上のリゾートだね」
「はいっ! ユウ様のおかげで、毎日が夢のようです!」
湯上がりで少し頬を染めたセリスが、嬉しそうに微笑む。
その神々しいまでの美しさに、僕の心拍数が少し上がったのは内緒だ。
『マスター。ご歓談中失礼します。本車両のレクリエーションモジュールより、入浴後に最適な遊戯設備を設置しました』
ナビのアナウンスと共に、広場の一角に置かれたキャンピングカーの側面が開き、何かの台がスライドして出てきた。
緑色の天板に、真ん中に張られた白いネット。
そして、傍らに置かれた小さなラケットとピンポン球。
「……ナビ。これ、まさか」
『はい。ジャパニーズ・オンスンにおける伝統的競技『タッキュウ』です。乗員の皆様の運動不足解消、および親睦を深めるために最適と判断しました』
「どこからそんな変な知識を仕入れてきたんだよ……」
「ユウよ、あれは何じゃ? 武器か?」
初めて見る卓球台に、仲間たちが興味津々で集まってくる。
僕はため息をつきつつも、ラケットを手に取った。
「これは『卓球』っていう遊びでね。この小さな球を、ネット越しに打ち合うんだ。……まあ、百聞は一見に如かず。誰か一勝負してみるかい?」
「面白そうじゃん! アタシが相手になってやるよ!」
即座に名乗りを上げたのは、負けず嫌いのルナだった。
彼女はもう一つのラケットを手に取り、ブンブンと素振りをする。
「ルールは簡単だ。相手のコートに一回バウンドさせてから打ち返す。打ち返せなかったり、ネットに引っかけたら相手の得点だ。先に十一点取った方の勝ちね」
「へへっ、アタシの動体視力を甘く見ないことだね!」
かくして、異世界での第一回・温泉卓球大会が幕を開けた。
最初は力加減がわからずホームランを連発していたルナだが、数回のラリーでコツを掴むと、恐ろしいほどの反射神経で球をリターンしてくる。
「そりゃっ!」
「おっと、甘いな!」
白熱するラリー。
いつの間にか、セリスやカエデ、ララたちが観客となって声援を送っていた。
「ルナさん、頑張ってください!」
「ユウ殿の動き、まるで達人のようです……無駄がありません」
「あははっ! おもしろーい! 次ララもやるー!」
風呂上がりに浴衣姿(カエデに用意してもらった)で卓球に興じる。
この平和で馬鹿馬鹿しい時間が、たまらなく愛おしかった。
――しかし、僕らがスローライフを満喫しているその裏で、確実に『次なる波』は近づいていたのだった。




