第104話: 地の底のヌシ
『警告。未識別の中型生体反応。ヤマトに伝承される魔物の一種『土蜘蛛』の突然変異体と推測されます』
ナビの冷静な声とは裏腹に、目の前の土蜘蛛は明らかな殺意を放っていた。
温泉掘削のために掘った巨大な縦穴から這い出してきたそれは、広場の中央を占拠するように居座り、無数の複眼で僕たちをねめつけている。
「チッ、せっかくのバーベキュー広場が台無しじゃないか!」
「文句言ってる場合じゃないですよ! 来ます!」
ルナが愛用の短剣を抜き放ち、セリスが杖を構える。
巨大な土蜘蛛が、その太い前脚を振り上げ、目にも留まらぬ速さで僕たちへと襲いかかってきた。
「ポチ! ホタル! 迎撃だ!」
『ワンッ!』『ピーッ!』
キャンピングカーから射出された警備ドローンのポチ丸(柴犬型)と、偵察ドローンのホタル(球体型)が空に舞う。
ホタルが照射する妨害レーザーで土蜘蛛の視界を奪い、その隙にポチ丸が搭載された非殺傷ミサイル(ゴム弾仕様)を連続発射した。
ドゴォォォンッ!
「よし、命中――って、硬っ!?」
爆煙が晴れると、そこには無傷の土蜘蛛がいた。
岩のように隆起した甲殻は、ゴム弾程度の威力では傷一つ付かないらしい。
『キシャァァァッ!』
怒り狂った土蜘蛛の口から、粘着性のある白い糸が大量に噴射される。
それはただの糸ではない。触れたものを石化させる、いや、周囲の土砂を巻き込んで急速に硬化する『泥の結界』のような代物だった。
「ひゃっ!?」
「ララ、危ない!」
逃げ遅れそうになったララを、ルナが間一髪で抱き抱えて回避する。
直後、ララがいた地面が白い糸に覆われ、カチンコチンの石膏のようになってしまった。あんなものに捕まったら、一瞬で身動きが取れなくなる。
「これ以上、好きにはさせません……! 【聖なる盾】!」
セリスの杖から放たれた光の壁が、土蜘蛛の追撃の糸を弾き返す。
しかし、結界はあくまで防衛用。決定打にはならない。
「こうなったら、僕の車で轢き殺すしか――」
「ええい、少し待たぬか! 邪魔じゃ!」
僕がキャンピングカー(重機モードのまま)に乗り込もうとした時、背後から小柄な影が前に進み出た。
床まで届く銀色の魔法陣をローブの裾に描きながら、大賢者ソフィアが杖を天へと突き上げる。
「何十年ぶりかの温泉に入れんと聞いて、わらわは今、非常に機嫌が悪い」
ソフィアの周囲に、真っ黒な球体がいくつも浮かび上がった。
魔導都市の防衛線を一撃で粉砕したアレだ。
「さっさとそこをどけ、虫ケラ。わらわのバカンスの邪魔をするな!」
ソフィアの金色の瞳が、冷酷な光を放った。




