第103話: 温泉掘削ミッション
「おんせん……! あの、絵巻物で見たことのある、お湯の湧き出る池のことですね!」
僕が『温泉』という単語を口にした途端、セリスの瞳がキラキラと輝き出した。
キャンピングカーのシャワーも快適だが、やはり日本人(というか転生者)たるもの、広い湯船で手足を伸ばして浸かりたい。
しかもここはヤマトの国。最高の露天風呂を作るにはぴったりのロケーションだ。
「よし、ナビ! この辺りで地脈と水脈が交差している、最高の温泉脈を探してくれ。源泉掛け流しが希望だ!」
『了解しました。地中探査レーダーを起動。……深度四百メートル地点に、極めて上質な高温の地下水脈、および高濃度の魔力溜まりを検知しました。成分は硫黄泉に近いと推測されます』
さすがナビ、あっという間に見つけてくれた。
「完璧だ! それじゃあ、さっそく掘り進めよう。次のアップデート機能、出番だぞ!」
『イエッサー。掘削ユニットを展開します。対象地点の上空へ移動してください』
キャンピングカーが再び「ガションッ!」と音を立てて変形する。
今度は車体の底面から、何重にも重なった螺旋状の巨大なドリルが真下に向けてせり出してきた。
「ユウ、それはなんじゃ!? 先端がグルグル回っておるぞ!」
「地底探検でもするつもりかい? アタシは遠慮するよ……暗いし狭いし」
ソフィアが珍しそうにドリルを杖でツンツンと突っつき、ルナは少し顔を引きつらせて後ずさる。
「いや、僕たちは乗っているだけでいいんだ。自動で掘り進めて、配管までやってくれるからね。いけ、ナビ!」
『掘削開始』
キュイイィィィン!!
という甲高い駆動音と共に、巨大ドリルが地面へと突き刺さる。
ただの土や石なら一瞬だが、地下の岩盤を貫くとなるとそれなりに時間がかかる。
その間、僕たちは外に出て、新しくできたばかりの広場でピクニック気分を味わうことにした。
「わーい! おっきいお庭だー!」
「こらララ、泥だらけになったらまたシャワーだぞ!」
ララが狐の姿になって走り回り、ポチがそれを追いかける。
セリスはカエデにヤマトのお茶の淹れ方を教わっており、ソフィアは「早く温泉に入れろ」と僕の背中を杖でポカポカと叩いていた。
「痛い痛い! もう少しで出るはずだから!」
「うむ、わらわの肌は乾燥に弱いのじゃ。極上の湯に浸かって、美貌を保たねばならんからのう!」
八歳の幼女(外見)が何を言っているんだと思いつつ、平和な時間が過ぎていく。
この何もない森の中に、立派な温泉宿が完成する情景を思い浮かべると、思わずニヤニヤしてしまう。
ところが。
『マスター。異常事態です』
ドリルの回転音が止まり、ナビから警告のアナウンスが響いた。
同時に、足元の地面がかすかに、だが不気味に振動し始める。
「どうした? 温泉堀り当てたんじゃないのか?」
『現在、深度三百五十メートル付近で、硬質な未知の空間に到達しました。ドリルが弾かれています。さらに――』
ナビが言い終わる前に、答えは下からやってきた。
ドゴォォォォォッ!!!
掘削していた穴から、凄まじい土砂が噴き上がる。
そして、その大穴の奥底から、腹の底を震わせるような恐ろしい咆哮が響き渡った。
『キシャァァァァァァァッ!!』
「な、なんだ!? 地震か!?」
「ルナ、違う! 何かが、下から上がってくる!」
地面のヒビ割れが広がり、そこから現れたのは、キャンピングカーよりも一回り大きな影だった。
八本の太い脚。全身を覆う岩のような甲殻。そして、ギラギラと赤く光る無数の複眼。
「……嘘だろ。あんなデカいクモ、図鑑でも見たことないぞ」
ヤマトに眠る土着の魔物。
温泉の代わりに、とんでもないものを掘り当ててしまったようだ。




