第102話: 重機モード起動
「シートベルトって、あの紐のことですか!? きゃあっ!」
「うわわっ! なんだなんだ、車体がものすごく揺れてるぞ!?」
突如として始まったキャンピングカーの変形に、セリスやルナたちが悲鳴を上げる。
外装の装甲がガチャガチャと組み替わり、車体前部からは巨大な排土板がせり出してきた。さらに、屋根の上にはアームのついた多関節のクレーンまで出現している。
「ナビ、これ……やりすぎじゃないか?」
『否定します。マスターの「この森を切り開いて整地する」という要望に対して、最も効率的な解を導き出しました。これより、障害物の排除および地盤の平滑化を開始します』
ナビの声と共に、エンジンの駆動音がかつてないほど野太い唸りに変わる。
キャンピングカー――いや、もはや『超機動開拓重機』と化した僕のマイホームは、鬱蒼とした森の中へと突撃していった。
「メキメキメキッ!」
「ズゴゴゴゴゴ!」
巨大なブレードが、太さ一メートルはあろうかという大木を易々と根元からへし折り、そのまま押し退けていく。
邪魔な岩も、デコボコの地面も、すべてが平らに均されていく。
僕の【マイホーム】スキルによって魔力を供給されているため、燃料切れの心配もないし、謎の物理法則で泥や汚れが車内に入ってくることもない。
「す、すごい……! あの大自然があっという間に平らな道になっていきます!」
「おいおい、冗談だろ……? 王国の工兵部隊が百人がかりで一ヶ月かけるような工事だぞ、これ……しかもたった一台で……」
窓枠にしがみつきながら外の景色を眺めていたセリスが目を輝かせ、ルナはドン引きして口をあんぐりと開けている。
「ひゃっほー! ララ、この乗り物だーいすき! もっと揺らしてー!」
「カッカッカ! 凄まじい力業じゃな! ナビよ、わらわの重力魔法も併用するか?」
『提案を却下します、ソフィア様。貴方様の魔法は地形そのものを消滅させる危険性があるため、建設作業には不向きです。……ああ、切り倒した木材の回収フェーズに移行します』
ナビがそう言うと、屋根の上の多関節クレーンが高速で動き出した。
切り倒された巨大な丸太を次々と掴み上げ、アームの先端についた丸鋸のようなユニットで、瞬く間に四角い建材へと加工していく。
加工された木材は、車体後部のストレージ空間(僕のスキルによる四次元ポケット的なもの)へと次々に吸い込まれていく。
「これで、後で家を建てる時の材料もバッチリ確保できたね」
「ユウ殿……貴方様たちが只者ではないとは思っておりましたが、まさかこれほどとは……」
助手席のカエデが、完全に言葉を失っていた。
彼女の目から見れば、森を丸ごと食い尽くしながら平地を生み出していく鉄の化け物にしか見えないだろう。
そして――それからたった半日後。
『マスター。指定区画の整地、および基礎資材の採取が完了しました』
「お疲れ様、ナビ」
キャンピングカーが変形を解き、元の見慣れた姿に戻る。
僕たちが車を降りて周囲を見渡すと、そこには見事なまでに真っ平らな、広大な空き地が広がっていた。
切り株一つ残っていない、完璧な更地だ。
「よし、第一段階はクリアだ。次は……いよいよ本命だな」
「本命?」
首を傾げるルナに、僕はニヤリと笑ってみせた。
「決まってるだろ。スローライフの最高峰……『温泉』を掘るんだよ!」




