第101話: 新しい居場所
ヤマトに平和が戻り、盛大な宴を満喫してから数日後。
僕たちはヤマト最大の商業都市サカイを離れ、領主ゲンサイ様から下賜されたという新たな「領地」へと向かっていた。
「ここから先が、父上がユウ殿たちにお渡しした土地になります」
キャンピングカーの助手席で、和服姿のカエデが前方を指さす。
道案内として同行してくれている彼女の指の先には――見渡す限りの大自然が広がっていた。
鬱蒼と茂る森、切り立った岩山。人の手が入った形跡は欠片もない。
「……うん。自然豊かで空気が美味しいね。それは認める」
「はっはっは! 見事な荒れ地じゃな! まるで開闢の時代のようじゃ!」
「ちょっとソフィア、笑い事じゃないわよ! 虫とか出そうだし、お店も何もないじゃない!」
魔導杖サイズのままのソフィアは大ウケしているが、ルナは頭を抱えている。
セリスは窓の外を見ながら、おっとりと微笑んだ。
「でも、とても静かで良い場所です。川のせせらぎも聞こえますし、鳥の鳴き声も綺麗ですね」
「ララ、あそこの木に登っていい!? 木の実あるかな!?」
「こらこら、まだ外に出ちゃダメだよ。何が潜んでいるかわからないからね」
はしゃぐララの尻尾を軽く撫でながら、僕はため息をついた。
「カエデ。この土地、広さだけならそこらの村より大きいけど……本当に何もないね?」
「申し訳ありません……」
カエデが申し訳なさそうに肩を落とした。
「実は、この一帯はヤマトでも有数の霊脈が通っているのですが、その分魔物も出やすく、開拓が全く進んでいなかったのです。父上も『普通の者には手に余るが、あの者たちならばあるいは』と……」
「なるほどね。いわば厄介払い――じゃなくて、僕たちの実力を見込んでのことか」
まあ、ヤマトを救ったとはいえ、素性の知れないよそ者に立派な街をそのまま任せるわけにもいかないだろう。
それに、誰の干渉も受けない手つかずの土地の方が、僕の【マイホーム】スキルを存分に振るうことができる。
「よし、決めた」
僕はハンドルを握り直し、アクセルを軽く踏み込んだ。
キャンピングカーが未舗装の獣道をゆっくりと進んでいく。
「僕たちの新しい居場所は、ここにしよう。誰にも邪魔されない、最高のリゾート地を作ってやる」
「リゾート! いいですね!」
「おうさ! アタシは美味いお酒が飲めるバーを希望するよ!」
「わらわは日当たりの良い縁側でのんびりしたいのう」
「ララはおっきなお庭がほしい!」
仲間たちが思い思いの希望を口にする。
最高の食材(米や味噌)は手元にある。あとはそれに相応しい、最高の環境を整えるだけだ。
「よしよし、全部叶えてやるさ。みんな、手伝ってくれるね?」
「はいっ! 私にできることなら、なんでも言ってみてください!」
セリスが力強く頷き、他の皆もやる気満々の笑顔を見せた。
カエデも「私も微力ながらお手伝いいたします」と頭を下げてくれる。
「まずは、この森を切り開いて整地しないとな。さすがに僕のスキルでも、土地そのものを平らにすることは……」
そう言いかけた時だった。
『マスター。ご要望を確認しました』
ダッシュボードのモニターが点灯し、ナビの無機質な声が車内に響く。
『本車両のアップデート項目に、該当する機能が存在します』
「アップデート? っていうか、ナビ。まさか……」
『はい。これより『重機モード』を起動します。乗員の皆様は、シートベルトの着用をお願いします』
その瞬間、キャンピングカーの車体が「ガコンッ!」と重低音を響かせながら、大きく変形を始めた。




