SS: 異文化交流(ソフィア視点)
「ほう、紙の札に魔力……いや、『気』を込めて式神を使役するとな? 面白いアプローチじゃ。じゃが、効率が悪すぎる」
東の国、ヤマト。
領主の城の一室で、ソフィアは現地の高名な陰陽師たちと車座になって議論を交わしていた。
周囲に散らばっているのは、難解な魔法陣が描かれた羊皮紙と、奇妙な文字が書かれた護符の山。
議題は「西洋魔法と東洋陰陽術の統合可能性について」。
まさに異文化交流の最前線である。
「しかし、術の起動プロセスが冗長すぎるのう。詠唱と印を結ぶのに十秒もかかっておっては、実戦では隙だらけじゃ。わらわなら、術式のここを短縮して、触媒を省略すれば二秒で発動できるぞ」
「なっ……! ま、まさか、そんな無法な! それは数百年の伝統を覆す暴挙ですぞ!」
白髭を蓄えた年配の陰陽師が、顔を真っ赤にして反論する。
彼らにとって、手順を省略することは神への冒涜に等しいらしい。
だが、ソフィアは涼しい顔で鼻を鳴らす。
「ふふん、理屈や伝統に縛られるな若造(といっても老人だが)。魔法の本質はイメージと意志の力じゃ。形式なんぞあくまで補助輪に過ぎぬ」
「なんと不敬な……! ならば、証明していただこう!」
陰陽師たちが色めき立つ。
ソフィアはにやりと笑い、手近にあった白紙の札を指先で挟んだ。
「よう見ておれ」
彼女は呪文も唱えず、印も結ばず、ただ一瞬、瞳を輝かせただけ。
ボッ!
札が青白い炎に包まれ、そこから光の鳥が飛び出した。
鳥は部屋中を旋回し、美しい軌跡を描いて消滅した。
「な……ば、バカな……印も結ばずに……!?」
「あのような高等な式神を、一瞬で……!」
陰陽師たちは絶句し、やがて狂喜乱舞してメモを取り始めた。
彼らの目の色は、警戒から尊敬、そして崇拝へと変わっていた。
「さあ、授業料は高いぞ? わらわに貴様らの秘術を全て教えるのじゃ」
大賢者様は、異国の地でも相変わらずマウントを取りつつ、貪欲に新しい知識を吸収していた。
この数日後、彼女が陰陽術の理論を応用して自律稼働する『式神ゴーレム(全自動掃除機能付き)』を作り出し、陰陽師たちの度肝を抜くことになるのは、まだ先の話である。
知識欲の権化である彼女にとって、この未知の国は宝の山に見えていることだろう。




