第095話: 忍び寄る影(黒影衆)
夜。
僕たちはカエデを車内に泊めることにした。
彼女は命を狙われている。一人で外に出すのは危険だ。
キャンピングカーの照明を落とし、静まり返った車内。僕たちは息を潜めてその時を待っていた。
「……静かすぎるね」
ルナが窓の隙間から外を見ながら呟く。
港の喧騒は消え、不気味なほどの静寂が広がっている。虫の声ひとつしない。
『警告。半径100メートル以内に多数の生体反応。……殺気を持った集団が接近中』
ナビの赤い警告灯が点滅した。敵は音もなく忍び寄っているようだ。
「来たか」
モニターには、屋根の上、物陰、海の中……あらゆる方向から迫りくる無数の赤い点が映し出されていた。
悪徳家老が雇った暗殺部隊『黒影衆』だ。
「夜這いとは感心せぬのう。安眠妨害じゃ」
ソフィアがパジャマ(浴衣)姿のまま起き上がってきた。寝起きで機嫌がすこぶる悪い。
その時だった。
シュシュシュッ!
無数の風切り音と共に、手裏剣や苦無が雨のように降り注いだ。
だが、それらは車体に触れる直前で、見えない壁に弾かれた。
キンキンキンッ!
「なっ、なんだこの結界は!?」
「くそっ、攻撃が通じぬ!」
焦る忍者たちの声が闇夜に響く。
車体シールドは完璧だ。
「さあ、お返しの時間だ! 寝込みを襲うなんてマナー違反だよ! 喰らえ、ファイア・ストーム!」
「氷柱の雨だよ!」
僕とルナが窓から身を出し、魔法を放つ。
僕の放った紅蓮の炎が旋風となって忍者たちを巻き上げ、ルナの氷槍が逃げ惑う影を貫く。
しかし、敵の数は多い。次から次へと影が湧いてくる。
「ちっ、しつこいね!」
「風情がないのう。東方の空には雷こそが相応しい。……『落雷』」
ソフィアが優雅に扇子を振るうと、夜空が一瞬にして白く染まった。
ドッガァァァン!!
鼓膜をつんざく轟音と共に、凄まじい雷撃が地面に突き刺さる。
電流が地面を走り、敵の本隊を直撃した。
「ぎゃあああ!」
「し、痺れるぅぅぅ!」
黒焦げになった忍者たちがバタバタと倒れ、痙攣している。
圧倒的な火力差だ。
「……信じられん。黒影衆を一網打尽にするなんて」
カエデが震える声で呟く。
彼女にとって脅威だった暗殺部隊も、僕たちにかかればこの通りだ。
「ふふん、私の仲間に手出ししたのが運の尽きってやつさ」
ララが得意げに胸を張る。
こうして、夜襲は呆気なく失敗に終わった。
だが、これで敵も本気を出してくるだろう。明日はいよいよ決戦だ。僕は気を引き締めた。




