第094話: キャンピングカー・和風モード
「とりあえず、詳しい話は安全な場所で聞くよ。来てくれ」
僕たちはまだ警戒心の解けないカエデを連れて、港の駐車場に停めてあるキャンピングカーへ戻った。
夕日に照らされ、独特の威容を放つ白い車体。
「これは……鉄の馬車か? こんな大きな鉄の塊が動くとは……それに、車輪もついていないようだが?」
カエデが目を丸くして、恐る恐る車体に触れる。
だが、驚くのはまだ早い。本番はここからだ。
「ナビ、お客さんだ。内装を『和風モード』に変更してくれ。最高のおもてなしを頼むよ」
『了解。インテリア・リフォーム・プログラムを起動。和風・数寄屋造りスタイルを適用します』
僕の音声コマンドにナビが応えると、ウィンウィンという静かな駆動音と共に、車内のレイアウトが劇的に変わり始めた。
フローリングの床が波打つように変形し、青々とした井草の畳が敷き詰められていく。
白い壁には木目が浮き上がり、窓には障子とふすまが出現。
極めつけは、ダイニングテーブルが格納され、代わりに中央に黒塗りの座卓――こたつ付きのちゃぶ台がせり上がってきたことだ。
「な、なんと……! 中はカラクリ屋敷になっておるのか!?」
カエデが腰を抜かさんばかりに驚き、後ずさりする。無理もない。現代人でも驚く光景だ。
「すごい! 畳だ! 井草のいい匂いがするー!」
「ほう、これが東方の建築様式か。木と草の香り……なかなか落ち着くのう」
ララは畳の上をごろごろと転がり、ソフィアは満足げに頷く。
靴を脱いで上がると、畳の適度な弾力が足裏に心地よい。
僕たちはこたつに入り、まだ呆然としているカエデにも勧めた。
「さあ、入って。外は冷えるだろう? 温まるよ」
「は、はい……失礼いたします」
カエデは緊張した面持ちで正座し、恐る恐る足をこたつに入れた。
「……っ!?」
瞬間、彼女の瞳が見開かれる。
こたつの魔力(遠赤外線ヒーター)は、異世界の侍をも一瞬で虜にしたようだ。数分後には「ほぅ……」と蕩けたような顔になり、肩の力が完全に抜けている。
「これは……極楽か……」
「えーと、カエデさん? 落ち着いたところで、事情を聞かせてもらえるかな?」
「! ……す、すまない。あまりに心地よくて、つい……」
彼女はハッとして、コホンと可愛らしい咳払いをし、居住まいを正した。
そして、真剣な眼差しで語り始めた。
「実は……父が、領主である父が、『妖刀・村雨』の呪いに操られているのです」
彼女の口から語られたのは、この国を揺るがす黒い陰謀と、父を救いたいという切実な願いだった。




