第091話: 黄金の国ヤマト
海賊諸島を抜け、さらに東へ進むこと数日。
どこまでも続く水平線の彼方に、薄っすらとだが、巨大な陸地の影が見えてきた。
初めは雲かと思ったが、近づくにつれてその輪郭ははっきりとし、緑豊かな山々と、長く続く海岸線が姿を現した。
「見えたぞ! 東の大陸だ!」
僕がハンドルを握りながら叫ぶと、車内は喚声に包まれた。
後部座席でトランプをしていた三人娘が、弾かれたように窓際に押し寄せる。
「うわぁ! 大きいね! あれが全部陸なの!?」
「ふむ。地図によれば、ここが東の果て、『黄金の国ヤマト』じゃな」
「黄金……。金銀財宝がザクザクってことかい? 夢があるねぇ」
ララは目を輝かせ、ソフィアは知識を披露し、ルナは欲望を隠そうともしない。
ついに、ついに辿り着いたのだ。僕の故郷である日本によく似た文化を持つと言われる国へ。
『マスター。前方に港湾都市を確認。入港手続きの信号を受信しました。言語パターン照合……日本語との類似性、98%です』
ナビの報告に、僕の胸が高鳴る。
キャンピングカーが速度を落とし、ゆっくりと港に近づいていく。
そこには、これまで見てきた石造りの西洋風の街並みとは全く異なる、懐かしくも新しい光景が広がっていた。
木造の建築物が整然と立ち並び、黒い瓦屋根が波のように連なっている。
港には大小様々な木造船が停泊し、活気に満ちている。
そして何より、通りを行き交う人々の服装だ。着物を着て、髷を結った男たちや、日本髪を結った女性たちが歩いている。
「すごい……本当に日本みたいだ。時代劇のセットに迷い込んだみたいだ」
僕は窓に張り付いて、食い入るように見入ってしまった。
ここは東の国『ヤマト』の玄関口、商業都市サカイ。
活気あふれる港には、「○○屋」と屋号が書かれた蔵が並び、法被を着た男たちが掛け声を上げながら荷揚げ作業をしている。
「ふむ、これまた趣のある国じゃな。建築様式が独特じゃ。釘一本使わずに建てられておるようじゃぞ」
「不思議な服ですね……。ひらひらとしていて、動きにくそうですが……あれがキモノというのですか?」
ソフィアとセリスも興味津々だ。
異文化との遭遇は、いつだって冒険者の心を躍らせるものだ。
「くんくん……おいしそうな匂いがするよ! お醤油の匂い!」
ララの鼻がピクピクと動く。
窓を少し開けると、風に乗って漂ってくるのは、紛れもなく醤油と出汁の混ざり合った、香ばしい香り。
焼き魚か、それとも煮物か。
その瞬間、僕の胃袋が限界を訴えるようにキュウと鳴った。
そういえば、ここ数日は保存食のパンと干し肉ばかりだった。
「よし、上陸だ。観光も大事だけど、まずは……飯にしよう! 本場の和食を食べるんだ!」
僕の提案に、全員が力強く頷いた。
僕たちは逸る気持ちを抑えきれず、キャンピングカーを港の駐車場(のような馬車止め)に停め、東の国への第一歩を踏み出した。
未知なる冒険と、懐かしの味が僕たちを待っている。




